ツイッターでは書ききれないのでこっちでw
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暗い部屋だ。
そう広くはない。
暗くて良くは見えないがわずかに明かりに照らされた部分から品のよい装飾が覗く。
おそらくは宮殿か何かの一室なのだろう。
その中央には玉座・・とは思えないが一段高い段がありそこには何人もの人間がいるようだ。
そしてその段と正対するように一人の小男が床に座らされている。
小男は叫ぶ。
男「おのれ!貴様自分が何をしているのかわかっているのか!」
壇上に座る男を見据え小太りの男が吼える。
顔にあざが出来ているあたりは拷問のあとなのだろう。
みれば薄汚れてはいるが着ている服もずいぶんと質のいい物だ。
どこかの貴族かなにかだったのだろう。
小男の見る先・・・叫んだ相手は・・・
オールバックの髪・・・幾分白いものが多く混じっているようだが。
そして鋭い視線を小男に向けている。
壇上の男は冷ややかな視線で見下ろしながら言った。
「もちろんだ。私は私の行いは熟知している。軽率な行動に走る伯とは違うのだ」
壇上に座る男が見下す小太りの男・・伯というからには貴族だろうが、後ろ手に縛られ
床に座らされている。
それでもなお、伯は吼える。
伯「軽率な行動だと!私の行動が!?許されると思っているのか!貴様の行いが!」
壇上の男は言う。
「ずいぶんと元気がいいな。どうやら審問官の働きが悪かったようだ。この件に
ついては後でしかるべき対処を行おう」
伯「はぐらかすな!答えろ!マシュー公!」
マシュー公と呼ばれた壇上の男・・・玉座・・ではない。
だが整えられた椅子はそれなりの地位がある者が座る椅子なのだろう。
表情一つ変えずマシューは言い放つ。
マシュー「さて、伯の質問に答えねばならんな。私の行動が許されるかと言う点だが、
それはギベール伯の判断するところではない」
今にも噛み付かんかの勢いで叫ぶギベール。
ギベール「ならば誰が答える!貴様か!己が世界の頂点だとでも言うつもりか!
神を気取るか!マシュー!」
マシュー「私にそんな権限などない。後の歴史が判断してくれよう」
ギベール「はっ!某弱無人に加え責任まで投げ出すつもりか!外道め!」
以外・・・と言わんばかりに少し眉根を寄せつつマシューは答えた。
マシュー「何を言っている?私は私の行いは熟知しているといったはずだ。功も責も
すべて私にある。責が勝ればいずれ裁かれよう。それもまた私の責務なのだ。
短慮に臣民を惑わす伯と同じにしてもらっては困る」
ギベール「奴隷制度に圧政!許される事だと思っているのか!人は平等なのだ!
だからこそ私は・・・・」
マシュー「人は平等ではない。生まれつき足の速い者、美しい者、親が貧しい者、
病弱な体を持つ者、生まれも育ちも才能も人間は皆、違っておるのだ。
だが、私は平等に扱っている」
ギベール「どの口がそんな戯言を・・・・!」
マシュー「そうかね?帝国においては奴隷は”存在しない”のだ。彼らは”三等”市民だ。
等しく我らが帝国の民だ。
そして、彼らを奴隷扱いし、一人特権を蝕んでいたもの達。彼らにもしかるべき
責務を与えた。
皆、平等に扱っている」
ギベール「三等市民なぞ建前にすぎん!しかもその行動こそが圧政だろうが!」
マシュー「では伯は皆責務を放棄して無責任に生きろというのかね?伯のように。
権利を得るには義務を履行せねばならない。
伯という地位にありながらに騒乱を起こし、テロリスト共に便宜を図る。
これは無責任・短慮とは言わないのかね?」
ギベール「・・・・っくっ!」
冷ややかな目で断罪の言葉を言い渡すマシュー。
マシュー「あげくに臣民に余計な負担と不安の種をまいた。伯の起こした行動が。だ。
この罪は決して軽くはない」
ギベール「私を殺そうというのか。いいだろう!その行動こそが貴様の独善と独裁の証と
民に知れよう!殺すがいい!」
マシュー「私を極悪人のように扱わないでくれたまえ。殺すわけがないだろう。私が。伯を」
ギベール「・・・・・・・・」
マシュー「さっきから聞いていればよくそんな下品な口が回る。
帝国に下品な男は必要ない。帝国に粗忽な貴族はいない。
高貴なるギベール家の伯爵はかの邪悪なエルフ共の姦計に載せられた配下の
失敗の責を自ら背負い、償いのため身を挺した。違うか?」
ギベールの頬に冷たい汗がつたう。
ギベール「・・・・どうするつもりだ・・・・」
マシュー「城のはずれに小さな廃屋があるのを伯はご存知かな?あそこには世を儚んだ者が
夜な夜な迷い出るらしい。どうだ?ゆっくりとかの者と語らってみては。
迷える魂を慰めてやればいい。なぁに”博愛精神にあふれる”伯の事だ。
きっと気に入られよう」
ギベール「!!!」
冷ややかに傍に傅く配下に宣告するマシュー。
マシュー「嘆きの館に幽閉しろ。ギベールの一族もすべて処罰だ。・・・そうだな。斬首に処せ。
首も放り込んでやればギベールとて寂しくなかろう」
配下「はっ。では・・・」
指示を受け行動に出ようとする配下に声をかけるマシュー。
マシュー「まて。この件についてはしろっこに処理させろ」
このマシューの意外な一言に思わず配下は問い返した。
配下「え?しかし、この程度の事、わざわざシロッコ卿のお手を煩わせる事では・・・」
すでに興味を失ったのか次の受刑者の書類に目を通しながら言うマシュー。
マシュー「かまわん。甘い事をしていればどうなるか。卿にもよい教材となるだろう」
さすがにここまで言われると唖然とするしかない。
何せ自分の腹心まで巻き込もうというのだ。
配下「は、はぁ・・・・・」
納得は行かない・・いや、なにがどうなっているのかと狐につままれたような顔で言う配下。
マシュー「引っ立てろ」
引き立てられていくギベール。
そこに声をかけるもう一人の配下がいた。
「閣下。それではギベール家は取り潰しですか」
マシュー「そうだな。ジルキオ。・・・・・いや、まて」
ジルキオ「は?」
マシュー「確かギベールには妻子がいたな」
手元の資料を確認しつつ言うジルキオ。
ジルキオ「え?あ、はい。確かに調書にはそのようになっております」
マシュー「かの者たちは斬首にするな」
ジルキオ「はぁ?」
これにはジルキオも目を白黒させざるを得ない。一体急に何の冗談だ?マシューが急にこんな
仏心を出すわけがない。
マシュー「無論裁かないわけではない。帝国を永久追放だ」
一体これは・・・考えをめぐらすジルキオ。
ジルキオ「!・・・なるほど!嘆きの館で妻子だけが首がなかったら・・・奴めにはこれほどの痛手は
ないでしょう!さすが陛下!しかしそうなりますとジルキオ家は取り潰しとなりますな。
ジルキオ家の資産もついでに国庫に没収というわけですね」
マシューの差配に感嘆の念を隠せない。
マシュー「いや。取りつぶしにはしない」
さすがにこの発言だ。配下だけでなくジルキオも目を白黒させる。
ジルキオ「か、閣下?一体何をお考えで・・・・?」
マシュー「この間つれてきた少年がいたろう?」
ジルキオ「ええ、まぁ。しかしそれとこれがどのような・・・・?」
さすがにこの問答に少し辟易したのか、ジルキオを見て答えるマシュー。
マシュー「あの少年を頭首に据えろ。まぁあの年でさすがに辺境伯もなかろうが。後見人を付けさせればいい」
ジルキオ「あの者をですか?正気ですか?閣下?」
マシュー「歳の割に出来た少年だ。育てれば有用な人材となる」
ジルキオ「しかし・・・あの少年は奴隷・・いえ、三等市民ですよ?たまたま陛下が町に出られた際、偶然話された
だけではありませんか」
マシュー「なんだ?ジルキオの方では不満か?ならば私が後見人になろうか」
この仰天発言に思わず否定にかかるジルキオ
ジルキオ「い、いえ!こちらの手の者で手配いたします!しかし!何度も申しますがあの少年は・・・!」
さすがに据えかねたのだろう。マシューのジルキオを見る目が鋭くなる
マシュー「だからなんだというのだ?才がある者を登用する。才に身分なぞ関係あるまい。それだけの事だ。何か不満があるのか?」
この剣呑な雰囲気にさすがのジルキオも折れざるを得なかった
ジルキオ「わ、わかりました・・・こちらで手配いたします・・・」
マシュー「すまんな。君には面倒をかけるがよろしく頼む」
ジルキオ「御意・・・・」
マシュー「さて、書類を見てみたが、14番目からは明日の審議で良かろう。それまではジルキオ。貴卿に任せるとする。かまわんか?」
ジルキオ「はい」
マシュー「申し訳ないが今日は先に上がらせてもらおう」
そういうとマシューは席を立った
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私室・・・なのだろうか。
それなりの大きさの部屋だ。
おそらく一般市民であれば家1軒分はゆうにある。
整えられた部屋で敷かれたじゅうたんや柱の装飾がそれなりの地位にある物が住まう場所である事を物語る。
部屋には品のよい品が並ぶが決して華美ではない。
むしろこの部屋の質感、規模に際して言えば相当に質素に写る。
「・・・・ふぅ・・・・」
疲労困憊とばかりにため息をつくマシュー。
近くのソファーに座り込んだ。
そんなマシューに声をかけるものがあった。
「お疲れ様でした。公爵様。今お食事を運ばせます」
みれば若い女性だが出で立ちからして侍従(メイド)なのだろうか。
マシュー「いや、いい。査問の後、ビヤ樽(ドワーフ)共と話をするハメになってな。おかげで腹いっぱいだ」
そんなマシューに声をかけるメイドがまだいた。
いや、メイドというには随分とたくまし過ぎるが・・・
「ククク・・・・夜の食事は健康の要!食を抜こうとは何たる不届きご主人よ!だが心配するなご主人!
この俺がいる限りいつも主人の健康に全力奉仕!それがこの俺メイドガ・・・」
マシュー「お前は呼んでいない。コガラシ」
そういうとポケットから小さな笛のようなものを出して吹くマシュー。
音は聞こえない。犬笛のようなものであろうか・・・
コガラシ「ヌファァーーッ!」
ズドン!
まるで猛獣が倒れるような音がする。
思わず目頭を押さえながら言うマシュー
マシュー「連れて行け。君達も今日はもう下がっていい」
メイド「は・・・はい・・・・・・」
マシューは思う
(いいかげんこの男も面倒になってきたな。さっさとジルキオに引き渡すべきかもしれんな・・・・)
人気のなくなった部屋でソファーに座っていたマシューはふと立ち上がる
カラン・・・
乾いた音がして何かが運ばれてくる。
グラスだ。
おや?それにしては・・・
マシューが運んできたのは質のいい・・とはとても言えない酒だ。おそらく貴族が呑むような酒ではない。
そしてグラスが2つ・・・
マシュー「久しぶりだな・・・この酒を開けるのも」
トクトクトク・・・
グラスに酒を注ぐ。
トクトク・・・
そしてなぜかもう一つのグラスにも。
マシュー「そういえばこの酒を飲んでふらふらになってはよく君に怒られていたな・・・・」
ゆっくりと口を付けるように少し酒を口に運ぶマシュー。
もう一つのグラスに目をやりながら言うマシュー。
マシュー「ふふ・・・あの頃は私が衛兵上がりの頃だったかな。よく君は言っていたな・・・
”そんなに呑むから膝に矢を受けて衛兵なんかになる羽目になったんです!”って・・・・」
珍しいのだろうか・・あのマシューが微笑んでいる・・・
いや・・・どこか寂しげな・・・何かを懐かしむような、寂しがるようなそんな笑みを・・・
マシュー「よく仕えてくれたよなぁ・・・あの後色々あったな。結局私が国の中枢入り込むようになって・・・
それでも君は影から支えてくれた。周りにいう事はさすがに出来なかったがね・・・・」
「覚えているよ。あの女を連れてきたときの君の表情は・・・いや、今更だがな・・・
申し訳ないと思っている。
所詮政(まつりごと)のためだけの女でもそんなの目の当たりにしちゃいい気はしないよなぁ・・・」
「でもさすがに君だ。すぐに悟ってくれたね。感謝しているよ。あの女か?さぁな・・・もう今となっては
何の用もないんでね。どんな女かも忘れたよ。もっとも書面では戦(いくさ)を避けて別宅に避難中
となっているが。
まぁ城の地下のダンジョンの土の中も避難中には変わるまい・・・・」
ふっ・・・そんな笑みがマシューに浮かぶ。
「どうしてだろうな。なぜか急に君の事を思い出してね。ある査問の最中に自分でも変だとは思うが思わず
仏心を出してしまった」
そしてきまりが悪そうに笑いながらつぶやくマシュー
「まぁ、君の逆鱗に触れたか、天罰なんだろうね。おかげでそのあと散々ビヤ樽共に付き合わされるハメに
なってしまった。だが、それだけの価値はあったぞ」
グラスを両手で持って祈るように言うマシュー。
「もう少しだ。もう少しで敵が討てる。君の命を奪った憎きクソ虫共。あのエルフ共をこの世から駆逐できそうだ」
「だがもう少しだけまっちゃくれないか・・・君の敵は必ず討つ。たとえ私が滅ぶ事になってもね」
「もっともコレだけの事をしてるんだ、天国の君には会えそうにないが・・はは・・・私の行くのは地獄だろうからね」
「だが約束する・・・いや、約束を果たしてみせる。私自身に誓った約束だが、君の敵は必ず討とう。必ず・・・・」
帝国の夜は深けて行く・・・