--------------------------------------------------------------衛兵の詰め所で惰眠をむさぼるマシュー。その寝顔はお腹一杯のハチミツ種よりももっと幸せそうだった。というより、足元にハチミツ種の瓶がいくつも転がっている。同じように衛兵たちもそれぞれぶっ倒れるようにして眠りについている。宴会でも開いたのだろうか・・・見ればうっすらと空も白み始めたあたり夜が開け始めているのだろう。そんな時。ぎぃぃぃぃ・・・ゆっくりと木の扉が開かれる。寝ていたはずのマシューの右手が剣にかかる。長い傭兵や冒険者時代の本能が自然に警戒をさせたのだろう。マシュー「・・・・誰だ?」寝ていたはずのマシューが声を上げる。「ま・・・・マシュー隊長・・・ゲフッ」思わず立ち上がるマシュー。そのまま扉の方に駆け寄った。マシュー「おい!大丈夫か!」見ればここまで這ってきたのだろう。扉の所の男は薄汚れている。マシュー「お前は・・・しっかりしろ!」マシューには見覚えがあったのだろう。マシューの部下だった男だ。さすがに膝以外に矢を受けて衛兵になったような男はこの男しかいない。忘れようがなかった。這ってきたという事はよほどの事があったのだろうか?いや・・・それどころか・・・・男の後には血の跡が続いていた。何者かに襲われたのであろうか?衛兵「わ・・・私のことよりも・・・・」マシュー「そんな事よりお前の方だ!ひどい怪我じゃないか!待ってろ!今癒しの手を・・・」衛兵「私の話を聞いてください・・・我々は帝都に入り込んだエルフをメルダ様と共に追っておりました」マシュー「帝都にだってエルフはいくらでもいる。大体なんでメルダがそんなまねを・・」とは言えマシューもただ聞いているわけではない。メルダから習ったのだろう。不器用ながらも癒しの手を使って兵を治療しながらだ。衛兵「皇帝陛下からの勅命なのです」マシュー「んだとぅ!あのクソ爺・・・俺のメルダになんてことを・・」衛兵「いえ、正確には皇帝陛下から命を受けた魔術師ギルドが彼女を捜索の任に充てたのです。 失礼ですが、隊長もメルダ様も帝国の生まれではありません。隊長はまだ衛兵長なので市民権が ありますが、メルダ様にはまだありません。ですから不法滞在者か奴隷と同様の扱いで、 魔術師でそれなりの腕をもち、帝国臣民でもない者。これならば有事の際も帝国に害はないと ギルド長が・・・・」眉間に皺を寄せてマシューは言う。マシュー「あのアーンゲールのクソ爺・・・」衛兵「そして・・・ここからが大事なのです。我々はメルダ様と共にエルフを追っていました。それはエルフが 帝都で悪事を企んでいるとの報があったからなのです」マシュー「それならメルダじゃなく俺達の仕事だろうに・・・」衛兵「マシュー隊長は色々な意味で顔を知られすぎています。大体容疑も確定していないのに表立って衛兵隊が 動くわけにはまいりません」マシュー「それはそーなんだが・・・」衛兵「そしてついに姦計を聾しているエルフを突き止めたのです。シ・ゲルでした。あいつはこの帝都で邪神を召還しようと していたのです」マシュー「な、なんだってーっ!」衛兵「なんとか阻止しようとしましたが・・・シ・ゲルの手の者が余りに多く・・・」マシュー「それでメルダは!?」衛兵「この事を隊長に伝えよと命を受けここまで逃げてきましたが・・・追っ手の方があまりに・・ゲフッ」さすがに深手だったのだろう。癒しの手のおかげで多少は話せたもののこの衛兵も長くはないようだった。衛兵「シ・ゲルはまだ町の外れの遺跡にいるようです。早く行かないとメルダ様が・・・」マシュー「わかった。よくやったぞ。もう休め。それだけの事をしてくれたよ」衛兵「申し訳ありません・・・少し休んだらわ・・・た・・し・・も・・ま・・・・・・た・・・・・」それきり衛兵は動かなくなった。そっとまぶたを閉じてやるマシュー。マシュー「あのこげ茶野郎・・・・まってろ・・・今その首を壁に飾ってやる!」そう言うとマシューは駆け出した。--------------------------------------------------------------マシュー(はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・)息が荒い。見ればあちこちがどす黒く汚れ、持つ剣も血にまみれている。パチパチパチ・・・乾いた拍手の音だ。しかしそれは決して賞賛を思わせない音。シ・ゲル「いやはやなんとも・・・驚きましたな。わずかこれだけの間に、役に立たない手下とはいえ、 数名のエルフを切り捨てるとは・・・・ その手下にさえ劣る劣等種族と思っていましたが・・・まったく貴方方は。これはいい勉強に なりましたな。認識を少々改めないといけないようだwww」憎憎しげにシ・ゲルを睨みながらマシューは吼える。マシュー「てめぇ・・・一体何を企んでやがる!何のために邪神なんぞを召還しようと!?それに・・・ メルダはどこだ!言え!」だがそんなマシューなぞ意にもかけないように。まるで目の前の子供を諭すように人差し指を振りながら言うシ・ゲルシ・ゲル「おやおやおや。質問は一つずつにして頂きたいものですな。そういう風には教えられなかったの ですかな。まったく、この劣等種族共と来たらwww」マシュー「答えろ!」マシューが吼えた。それに気後れしたわけではあるまい。ニヤリと嗤いながら言うシ・ゲル。シ・ゲル「いいでしょう。あっという間に配下を切り伏せた貴方の蛮勇に免じて答えて差し上げよう。 企みといいましたかな?私は何も企んではおりませんよ。 我らエルフのために、エルフがなしえる事を。そう。真なる開放のために我が同胞達の切なる 願いを果たさんと動いておるだけなのですよ」マシュー「それが邪神の召還か!?そんな物召還すればどういう事になるか判っているのか!?」いかなマシューとて冒険者としても修羅場を潜り抜けてきた。シ・ゲルの企みが如何に危険かは身にしみて知っていた。だがシ・ゲルに意に介した風さえない。シ・ゲル「分っておりますとも。貴方方生きる値打ちも何もない、劣等種族は滅び、真なる大地の 主たる、我らエルフがこの地を治めるのです」マシュー「貴様にそれが出来るわけがねぇぇぇ!」哀れむような眼でマシューを見ながら言うシ・ゲル。シ・ゲル「貴方方劣等種族と同じにされては困りますな。虫けらのような貴方方では出来ないことであっても 我々なら児戯にも等しい。そうだ。エルフこそが人の頂点であり、真なる人なのですよ」マシューの眼に更なる怒気が走る。マシュー「てめぇ・・・自分を何様だと思ってやがる・・・」シ・ゲル「そうそう。もう一つ答えないといけませんでしたな。ほらそこに転がってるゴミ。貴方は見覚えがあるのでは?」マシュー「なにぃ・・・・」そういわれて目を向けてみるマシューマシュー「!!!!!!!!!!!!!!」そこには・・・焼け焦げた細長いものとが転がっていた。絶叫すら枯れ果てる驚愕。かろうじて言葉をつむぐマシュー。マシュー「う・・・うそ・・・だ・・・・」そんな残酷な風景など微塵にも惨く感じないのだろう。劣等種族というからか・・・シ・ゲル「お認めになったらどうなのですかな?往生際の悪い。ほら私は答えましたぞ?」そうだ。細長い焼け焦げた人間の女性の胴体と・・・シ・ゲル「おお、そうだそうだ。これもありましたな」何か小さくて丸い物を蹴ってよこすシ・ゲル。それは・・・人間の頭部。メルダの生首が転がってきたのだった。マシュー「メルダァァァァァァァァァァァァッ!」--------------------------------------------------------------Part4に続く