--------------------------------------------------------------シ・ゲルの顔に焦りが浮かぶ。シ・ゲル「なんだと・・・もう3階層目を抜けただと・・・?一体何者なんだ!? この迷宮はそう簡単に抜けられぬはずだ!」水晶球を見ながら言うシ・ゲル。レーダーのようなものなのだろうか?そんなシ・ゲルに背後から声をかける者があった。「ふ・・・下らん。あの程度の雑魚でこの私を止められると思ったか?」思わずその声に振り返り・・・その顔をみて仰天するシ・ゲル。シ・ゲル「なにや・・・な・・・き、貴様・・・生きて・・・!?」冷たい眼のまま、表情さえ変えずに言い放つマシュー。マシュー「私が生きていては都合の悪いことでもあったのか?申し訳ないが、君には 返さなければならない借りがある。おちおちあの世で寝ているわけにもいかん」当然だ。己が手で屠ったと思う相手が目の前にたっているのだ。焦りか・・恐怖か・・思わず呪文を唱えるシ・ゲル。シ・ゲル「ふ・・・ふん・・そ、それがどうしたというのだ!劣等種族めが!」そういうと呪文を解き放つシ・ゲル。呪文の閃光が収まったその先には・・・マシュー「やれやれ。この程度か。この程度であれば結界を張るまでもない。 児戯ではなく少しは真面目にやってはどうだ?」むしろ呪文ではなく呪文で巻き上り、服についた埃を払うようにするマシュー。シ・ゲル「馬鹿な・・・外呪ではないとはいえ・・高位の破壊呪文を・・・・き、貴様! どうやって呪文を防いだ!?それになぜここにいる?貴様は死んだのでは なかったのか!?」さすがに魔法を防御されては慌てざるをえない。魔法においては他の種族を大きく引き離すのがエルフなのだから。嘲るように笑いながら言うマシュー。マシュー「ふ・・君の言葉を返そうか。質問は一つずつにしてはどうか?高慢な エルフはそういう風には学んでこないか?まったく、高慢なだけの無能種族共と きたら・・・・」シ・ゲル「く、くそ・・・っ!ならばこの呪文なら・・・・」呪文を唱え始めるシ・ゲルシ・ゲルの手に魔力が集まり光が次第に大きくなる。マシュー「ふ・・チャージなどさせるものか・・・」煙を払うように手を払うマシュー。その時。シ・ゲル「な・・・・・魔法が・・」そうだ。まるで火を消すように魔法が消えていく。集めたマジカが・・・霧散していったのだ。ことここに至ってはシ・ゲルとて慄く他はなかった。シ・ゲル「お、おのれ貴様ぁぁぁっ!私に何の恨みがある!?この高貴なエルフである私に!」冷徹な眼でシ・ゲルを見ながら言うマシュー。マシュー「いいだろう。面白い宴会芸を見せてくれた君の御遊戯に免じて答えてやろう。 一つ目だ。言っただろう?君には返さなければならない借りがある。我が半身とも 言えるメルダを惨殺した上、首を足蹴にするなど・・決して許すわけにはいかない」冷徹な眼にかすかに浮かぶ怒りの色。それは激しい怒り。深く、激しく。魂の奥底から浮かび上がる怒り。余りの激しい怒りは人をかえって無表情にするものだ。パチン。左手で指を鳴らすマシュー。バキバキバキバキ・・・嫌な音がする。シ・ゲル「ぐ!ぐぁぁぁぁぁぁっ!き、貴様何をしたっ!?」思わず左肩を抑えつつ悲鳴を上げるシ・ゲル。マシュー「やれやれ。これだから無能は。質問の追加か。ちょっとしたお遊びだ。もう 君の左手は使い物にならん。なんせ骨がすべて粉々に砕けてしまっているからな」肩を抑えながら憎憎しげにマシューを見るシ・ゲル。シ・ゲル「く・・・」まさにいつぞやの戦いが攻守逆転した形だ。マシュー「次の回答だ。あの程度の迷宮や雑魚で私をどうにかできると思っていたのか? 以前の私とは違うのだ」パチン。右手で指を鳴らすマシュー。シ・ゲル「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」左肩を抑えていた手が ぶらん と垂れ下がる。マシュー「これで君の両手は使い物にならん。まぁ・・文字通り”粉”ごなになった骨を つなげられるとも思えんが」怯えた眼でマシューを見つつ言うシ・ゲル。シ・ゲル「な、なぶりものにするつもりか・・・貴様人としての情けは・・・」マシュー「ないな。そんなもの。大体君が言える台詞か?それは。メルダの苦しみ、メルダの仇。 ゆっくりと復讐させていただく所存だ。楽に死ねると思うな。そうだな・・・定番では 次は足だろうが、こういうのはどうだ?」マシューの目が一点に注がれる。シ・ゲル「あぁあぁあぁぁぁっぁぁ!!!!!」思わず仰向けに倒れるシ・ゲル。声にならない叫びを上げるシ・ゲル。マシュー「これで君も宦官の仲間入りというわけだ。もっとも両手が使い物にならないんでは 役に立ちそうもないが」痛みと恐怖で涙目で言うシ・ゲル。シ・ゲル「わ、私を殺しても・・神の復活はとめられん!それに私の後を継ぐ者は必ずいる! エルフの真なる解放を望むものはたくさん・・・」マシューが手を横に払う。シ・ゲルの叫びが響き渡る。マシュー「まぁ定番だな。これで君の四肢は使い物にならなくなったわけだ。おっと。楽に気絶など して安楽な道に逃げられても困るのでね。逃げ道は塞がせてもらった。気絶なぞさせん」シ・ゲル「お、おのれぇぇぇぇ・・・・・ひ、一思いに殺せ!」懇願・・でもなかろうが・・・そうやって叫ぶのが今のシ・ゲルにとって精一杯だった。マシュー「さて、次はどうしようか・・・ああ、君と同じにされては困る。私はそこまで悪人ではない。 ”殺しはしないさ”そんな簡単に安息を得られても困るのでな」シ・ゲル「外道め・・・」ふ・・・ニヤリと笑ってマシューは言う。マシュー「まさか君にその言葉を言われるとは。そっくり返したいところだがいい響きだ。頂いて おこう。そうそう、最後の質問に答えねばならなかったな」シ・ゲル「・・・」マシュー「高位の呪文だかなんだか知らんが人の世の呪文なぞ私には効かん。私にも ”神の加護”があるのだ」思いも寄らぬこの発言にはさすがのシ・ゲルも問わざるを得なかった。シ・ゲル「神・・だと・・・貴様何を召還した・・・っ!?」そんなシ・ゲルを意にも介さず言うマシュー。マシュー「最も召還されただけで、封印が無くなった訳じゃないからな。いずれ力も衰える だろうが、今の君を相手にするには十分だ。そうそう・・・何を召還したと言われても 困ってしまう。そもそも召還したのは君自身だろう?私は何も召還しておらん」シ・ゲル「な・・・なん・・だと・・・貴様は一体・・・?」このセリフに想像がついたのだろうか・・・顔面蒼白になるシ・ゲル。マシュー「そう大仰に構えられても困る。千の無貌の一面。それにすぎん」シ・ゲル「そうか神の加護とは・・まさか貴様神と契約したのではなく・・・」どうやら自分がとんでもない存在を相手にしている事に気づきだしたシ・ゲル。マシュー「君の望む神の復活は果たした。一部分だがな。ちゃんと君の理想通りになったと 言うわけだ。覚えていないのか?」シ・ゲル「な・・・何を・・・」マシュー「私は問わなかったか?”神を召還するとどういうことになるか”と。こういう結果に なるのだ」シ・ゲル「く・・・貴様が正しかったとでもいうか・・」顎に手をあて考えるように言うマシュー。マシュー「さて、こうなってしまっては正しいとも誤っているとも言えん。ふむ・・・面白い命題だ。 うむ・・実に興味深い。これはそのような考察を与えてくれた君に礼をしないとな。 それにそろそろ飽いてきた」一瞬マシューの目が鋭くなる。シ・ゲル「!!!!!!!!!!!!!」最早悲鳴とすら聞き取れない絶叫を上げるシ・ゲルマシュー「茶番は終わりだ。文字通り化けの皮を剥いでやったぞ。さて、先ほどの報酬の 件だがね。たかが一側面に過ぎない私にはたいしたことはできないのだが、今なら 君に数千年の寿命を与えることができる。それを差し上げようじゃないか。 それなら約束どおり、殺さないで済むだろう? 誰でもが望む長寿が今君の物になるのだ。喜びたまえ」泡を吹くシ・ゲル。それはそうだろう。四肢、男性の大事な部分を破壊された上、文字通り全身皮をはがれた真っ赤な姿で転がっているのだから。その想像を絶する苦痛の中、マシュー声は届いているのだろうか・・・マシュー「もっとも、傷が癒える事もないし、発狂だの狂気に逃げ込むことも許さん。 気を失うことすらさせん。 その姿のままそこに転がって数千年の飢えと乾きと苦痛に苛まれつづけろ。 誰も来れぬようこの遺跡も封印する。 それがメルダを殺めた貴様への礼だ」そういうときびすを返すマシュー。マシュー「そうそう。忘れていたよ。心配するな。苦痛を感じるのは君だけじゃない。 君達腐ったエルフは根こそぎこの世界から消滅させてやる。もっとも・・・・ 君のおかげで大分力を使いすぎた。時間はかかるだろうが」そういうと挨拶のように手を上げるマシュー。マシュー「それではアディオスだ。精々解けぬ悪夢を楽しむがいい・・・・」--------------------------------------------------------------Part6(Final)に続く