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【名前】 マシュー 【性別】 男 【年齢】 三十台後半~40代前半 【種族】 人間 【所属・役職】 公爵位。帝国執政。征夷大将軍という感じかも。 【性格等設定】 冷酷。武より知を好む。この辺は過去とも関係あるようだ。 敵には一切の情け容赦しないが、臣下は家族同様に扱う。 【ステータス】 ★HP: 150 ★MP: 350 *攻撃力: 10 *魔力: 60 *防御力: 30 ただし膝だけは強固な積層立体魔法陣に守られているので、消し炭にされても膝だけは残る 攻撃方法:主に魔法。といっても派手な破壊魔法は使わない。 スネア(転ばす)、スリープクラウド(眠り)、スタン(麻痺)等の状態異常系のヤな魔法系と 地の利を生かして戦う方。 昔は冒険者で傭兵をしていたり、膝に矢を受けて衛兵になった経験もあり、人並みより少しマシ 程度には剣を扱えるが、剣豪と言うわけではない。 趣味:部下いぢり。 他にも秘密があるようで、千の無・・おっとこれ以上は秘密だ。
ツイッターでは書ききれないのでこっちでw ---------------------------------------------------------------------------------------- 暗い部屋だ。 そう広くはない。 暗くて良くは見えないがわずかに明かりに照らされた部分から品のよい装飾が覗く。 おそらくは宮殿か何かの一室なのだろう。 その中央には玉座・・とは思えないが一段高い段がありそこには何人もの人間がいるようだ。 そしてその段と正対するように一人の小男が床に座らされている。 小男は叫ぶ。 男「おのれ!貴様自分が何をしているのかわかっているのか!」 壇上に座る男を見据え小太りの男が吼える。 顔にあざが出来ているあたりは拷問のあとなのだろう。 みれば薄汚れてはいるが着ている服もずいぶんと質のいい物だ。 どこかの貴族かなにかだったのだろう。 小男の見る先・・・叫んだ相手は・・・ オールバックの髪・・・幾分白いものが多く混じっているようだが。 そして鋭い視線を小男に向けている。 壇上の男は冷ややかな視線で見下ろしながら言った。 「もちろんだ。私は私の行いは熟知している。軽率な行動に走る伯とは違うのだ」 壇上に座る男が見下す小太りの男・・伯というからには貴族だろうが、後ろ手に縛られ 床に座らされている。 それでもなお、伯は吼える。 伯「軽率な行動だと!私の行動が!?許されると思っているのか!貴様の行いが!」 壇上の男は言う。 「ずいぶんと元気がいいな。どうやら審問官の働きが悪かったようだ。この件に ついては後でしかるべき対処を行おう」 伯「はぐらかすな!答えろ!マシュー公!」 マシュー公と呼ばれた壇上の男・・・玉座・・ではない。 だが整えられた椅子はそれなりの地位がある者が座る椅子なのだろう。 表情一つ変えずマシューは言い放つ。 マシュー「さて、伯の質問に答えねばならんな。私の行動が許されるかと言う点だが、 それはギベール伯の判断するところではない」 今にも噛み付かんかの勢いで叫ぶギベール。 ギベール「ならば誰が答える!貴様か!己が世界の頂点だとでも言うつもりか! 神を気取るか!マシュー!」 マシュー「私にそんな権限などない。後の歴史が判断してくれよう」 ギベール「はっ!某弱無人に加え責任まで投げ出すつもりか!外道め!」 以外・・・と言わんばかりに少し眉根を寄せつつマシューは答えた。 マシュー「何を言っている?私は私の行いは熟知しているといったはずだ。功も責も すべて私にある。責が勝ればいずれ裁かれよう。それもまた私の責務なのだ。 短慮に臣民を惑わす伯と同じにしてもらっては困る」 ギベール「奴隷制度に圧政!許される事だと思っているのか!人は平等なのだ! だからこそ私は・・・・」 マシュー「人は平等ではない。生まれつき足の速い者、美しい者、親が貧しい者、 病弱な体を持つ者、生まれも育ちも才能も人間は皆、違っておるのだ。 だが、私は平等に扱っている」 ギベール「どの口がそんな戯言を・・・・!」 マシュー「そうかね?帝国においては奴隷は”存在しない”のだ。彼らは”三等”市民だ。 等しく我らが帝国の民だ。 そして、彼らを奴隷扱いし、一人特権を蝕んでいたもの達。彼らにもしかるべき 責務を与えた。 皆、平等に扱っている」 ギベール「三等市民なぞ建前にすぎん!しかもその行動こそが圧政だろうが!」 マシュー「では伯は皆責務を放棄して無責任に生きろというのかね?伯のように。 権利を得るには義務を履行せねばならない。 伯という地位にありながらに騒乱を起こし、テロリスト共に便宜を図る。 これは無責任・短慮とは言わないのかね?」 ギベール「・・・・っくっ!」 冷ややかな目で断罪の言葉を言い渡すマシュー。 マシュー「あげくに臣民に余計な負担と不安の種をまいた。伯の起こした行動が。だ。 この罪は決して軽くはない」 ギベール「私を殺そうというのか。いいだろう!その行動こそが貴様の独善と独裁の証と 民に知れよう!殺すがいい!」 マシュー「私を極悪人のように扱わないでくれたまえ。殺すわけがないだろう。私が。伯を」 ギベール「・・・・・・・・」 マシュー「さっきから聞いていればよくそんな下品な口が回る。 帝国に下品な男は必要ない。帝国に粗忽な貴族はいない。 高貴なるギベール家の伯爵はかの邪悪なエルフ共の姦計に載せられた配下の 失敗の責を自ら背負い、償いのため身を挺した。違うか?」 ギベールの頬に冷たい汗がつたう。 ギベール「・・・・どうするつもりだ・・・・」 マシュー「城のはずれに小さな廃屋があるのを伯はご存知かな?あそこには世を儚んだ者が 夜な夜な迷い出るらしい。どうだ?ゆっくりとかの者と語らってみては。 迷える魂を慰めてやればいい。なぁに”博愛精神にあふれる”伯の事だ。 きっと気に入られよう」 ギベール「!!!」 冷ややかに傍に傅く配下に宣告するマシュー。 マシュー「嘆きの館に幽閉しろ。ギベールの一族もすべて処罰だ。・・・そうだな。斬首に処せ。 首も放り込んでやればギベールとて寂しくなかろう」 配下「はっ。では・・・」 指示を受け行動に出ようとする配下に声をかけるマシュー。 マシュー「まて。この件についてはしろっこに処理させろ」 このマシューの意外な一言に思わず配下は問い返した。 配下「え?しかし、この程度の事、わざわざシロッコ卿のお手を煩わせる事では・・・」 すでに興味を失ったのか次の受刑者の書類に目を通しながら言うマシュー。 マシュー「かまわん。甘い事をしていればどうなるか。卿にもよい教材となるだろう」 さすがにここまで言われると唖然とするしかない。 何せ自分の腹心まで巻き込もうというのだ。 配下「は、はぁ・・・・・」 納得は行かない・・いや、なにがどうなっているのかと狐につままれたような顔で言う配下。 マシュー「引っ立てろ」 引き立てられていくギベール。 そこに声をかけるもう一人の配下がいた。 「閣下。それではギベール家は取り潰しですか」 マシュー「そうだな。ジルキオ。・・・・・いや、まて」 ジルキオ「は?」 マシュー「確かギベールには妻子がいたな」 手元の資料を確認しつつ言うジルキオ。 ジルキオ「え?あ、はい。確かに調書にはそのようになっております」 マシュー「かの者たちは斬首にするな」 ジルキオ「はぁ?」 これにはジルキオも目を白黒させざるを得ない。一体急に何の冗談だ?マシューが急にこんな 仏心を出すわけがない。 マシュー「無論裁かないわけではない。帝国を永久追放だ」 一体これは・・・考えをめぐらすジルキオ。 ジルキオ「!・・・なるほど!嘆きの館で妻子だけが首がなかったら・・・奴めにはこれほどの痛手は ないでしょう!さすが陛下!しかしそうなりますとジルキオ家は取り潰しとなりますな。 ジルキオ家の資産もついでに国庫に没収というわけですね」 マシューの差配に感嘆の念を隠せない。 マシュー「いや。取りつぶしにはしない」 さすがにこの発言だ。配下だけでなくジルキオも目を白黒させる。 ジルキオ「か、閣下?一体何をお考えで・・・・?」 マシュー「この間つれてきた少年がいたろう?」 ジルキオ「ええ、まぁ。しかしそれとこれがどのような・・・・?」 さすがにこの問答に少し辟易したのか、ジルキオを見て答えるマシュー。 マシュー「あの少年を頭首に据えろ。まぁあの年でさすがに辺境伯もなかろうが。後見人を付けさせればいい」 ジルキオ「あの者をですか?正気ですか?閣下?」 マシュー「歳の割に出来た少年だ。育てれば有用な人材となる」 ジルキオ「しかし・・・あの少年は奴隷・・いえ、三等市民ですよ?たまたま陛下が町に出られた際、偶然話された だけではありませんか」 マシュー「なんだ?ジルキオの方では不満か?ならば私が後見人になろうか」 この仰天発言に思わず否定にかかるジルキオ ジルキオ「い、いえ!こちらの手の者で手配いたします!しかし!何度も申しますがあの少年は・・・!」 さすがに据えかねたのだろう。マシューのジルキオを見る目が鋭くなる マシュー「だからなんだというのだ?才がある者を登用する。才に身分なぞ関係あるまい。それだけの事だ。何か不満があるのか?」 この剣呑な雰囲気にさすがのジルキオも折れざるを得なかった ジルキオ「わ、わかりました・・・こちらで手配いたします・・・」 マシュー「すまんな。君には面倒をかけるがよろしく頼む」 ジルキオ「御意・・・・」 マシュー「さて、書類を見てみたが、14番目からは明日の審議で良かろう。それまではジルキオ。貴卿に任せるとする。かまわんか?」 ジルキオ「はい」 マシュー「申し訳ないが今日は先に上がらせてもらおう」 そういうとマシューは席を立った ---------------------------------------------------------------------------------------- 私室・・・なのだろうか。 それなりの大きさの部屋だ。 おそらく一般市民であれば家1軒分はゆうにある。 整えられた部屋で敷かれたじゅうたんや柱の装飾がそれなりの地位にある物が住まう場所である事を物語る。 部屋には品のよい品が並ぶが決して華美ではない。 むしろこの部屋の質感、規模に際して言えば相当に質素に写る。 「・・・・ふぅ・・・・」 疲労困憊とばかりにため息をつくマシュー。 近くのソファーに座り込んだ。 そんなマシューに声をかけるものがあった。 「お疲れ様でした。公爵様。今お食事を運ばせます」 みれば若い女性だが出で立ちからして侍従(メイド)なのだろうか。 マシュー「いや、いい。査問の後、ビヤ樽(ドワーフ)共と話をするハメになってな。おかげで腹いっぱいだ」 そんなマシューに声をかけるメイドがまだいた。 いや、メイドというには随分とたくまし過ぎるが・・・ 「ククク・・・・夜の食事は健康の要!食を抜こうとは何たる不届きご主人よ!だが心配するなご主人! この俺がいる限りいつも主人の健康に全力奉仕!それがこの俺メイドガ・・・」 マシュー「お前は呼んでいない。コガラシ」 そういうとポケットから小さな笛のようなものを出して吹くマシュー。 音は聞こえない。犬笛のようなものであろうか・・・ コガラシ「ヌファァーーッ!」 ズドン! まるで猛獣が倒れるような音がする。 思わず目頭を押さえながら言うマシュー マシュー「連れて行け。君達も今日はもう下がっていい」 メイド「は・・・はい・・・・・・」 マシューは思う (いいかげんこの男も面倒になってきたな。さっさとジルキオに引き渡すべきかもしれんな・・・・) 人気のなくなった部屋でソファーに座っていたマシューはふと立ち上がる カラン・・・ 乾いた音がして何かが運ばれてくる。 グラスだ。 おや?それにしては・・・ マシューが運んできたのは質のいい・・とはとても言えない酒だ。おそらく貴族が呑むような酒ではない。 そしてグラスが2つ・・・ マシュー「久しぶりだな・・・この酒を開けるのも」 トクトクトク・・・ グラスに酒を注ぐ。 トクトク・・・ そしてなぜかもう一つのグラスにも。 マシュー「そういえばこの酒を飲んでふらふらになってはよく君に怒られていたな・・・・」 ゆっくりと口を付けるように少し酒を口に運ぶマシュー。 もう一つのグラスに目をやりながら言うマシュー。 マシュー「ふふ・・・あの頃は私が衛兵上がりの頃だったかな。よく君は言っていたな・・・ ”そんなに呑むから膝に矢を受けて衛兵なんかになる羽目になったんです!”って・・・・」 珍しいのだろうか・・あのマシューが微笑んでいる・・・ いや・・・どこか寂しげな・・・何かを懐かしむような、寂しがるようなそんな笑みを・・・ マシュー「よく仕えてくれたよなぁ・・・あの後色々あったな。結局私が国の中枢入り込むようになって・・・ それでも君は影から支えてくれた。周りにいう事はさすがに出来なかったがね・・・・」 「覚えているよ。あの女を連れてきたときの君の表情は・・・いや、今更だがな・・・ 申し訳ないと思っている。 所詮政(まつりごと)のためだけの女でもそんなの目の当たりにしちゃいい気はしないよなぁ・・・」 「でもさすがに君だ。すぐに悟ってくれたね。感謝しているよ。あの女か?さぁな・・・もう今となっては 何の用もないんでね。どんな女かも忘れたよ。もっとも書面では戦(いくさ)を避けて別宅に避難中 となっているが。 まぁ城の地下のダンジョンの土の中も避難中には変わるまい・・・・」 ふっ・・・そんな笑みがマシューに浮かぶ。 「どうしてだろうな。なぜか急に君の事を思い出してね。ある査問の最中に自分でも変だとは思うが思わず 仏心を出してしまった」 そしてきまりが悪そうに笑いながらつぶやくマシュー 「まぁ、君の逆鱗に触れたか、天罰なんだろうね。おかげでそのあと散々ビヤ樽共に付き合わされるハメに なってしまった。だが、それだけの価値はあったぞ」 グラスを両手で持って祈るように言うマシュー。 「もう少しだ。もう少しで敵が討てる。君の命を奪った憎きクソ虫共。あのエルフ共をこの世から駆逐できそうだ」 「だがもう少しだけまっちゃくれないか・・・君の敵は必ず討つ。たとえ私が滅ぶ事になってもね」 「もっともコレだけの事をしてるんだ、天国の君には会えそうにないが・・はは・・・私の行くのは地獄だろうからね」 「だが約束する・・・いや、約束を果たしてみせる。私自身に誓った約束だが、君の敵は必ず討とう。必ず・・・・」 帝国の夜は深けて行く・・・
決まっていないところは勝手に補完してくださって構いませんです 【名前】なし(巷では「グリモワール」「風來の辞書」「流れの叡智」など呼ばれている) 【性別】男 【年齢】20 【種族】獣人(犬系雑種) 【出身】帝国科学者 【所属・役職】旅人(中立だが帝国に与する気はない) 【性格等設定】 流れに任せて生きている風来坊。モットーは「なるようになる」。温厚でお人よしで困っている人を見ると首を突っ込まずには居られない。 一定の界隈では有名人であり、世界の秘密についても知っているのでは?と噂されている。所持している魔本には今までの持ち主の知識が詰まっており、そこにさらに自分の知識を加えるべく渡り歩いている。金銭含む様々な管理が超弩級にヘタクソでよく行き倒れている。 【来歴】 もともとは知識量を活かして帝国に買われ様々な実験を行っていたが嫌気がさし出奔。帝国の目から逃れながら各地を渡り、自分が奴隷に科した枷を外して回っている。 【戦闘】 可能な限り戦闘は避けようとし、逃げるか話し合いで解決しようとするタイプ。相手が帝国の場合はお構いなしに魔本へ刻まれたあらゆる魔法を詠唱して斬滅しようとする。 【恋愛傾向】 たとえこの世が滅びようと恋心には気づかないという超弩級鈍感。そのくせ相手をもてあそぶのは好き
「どこへ行くつもりですかな?」 そびえたつ巨大な石門。旅人たちの間では、 この闘技場はいわば緑の残る荒野から砂漠を区切る目印になっていた。 どこまでも続くような荒涼たる荒野と死の砂漠を繋ぐ巨大な石造りの門の下で、 ラガルトは去りゆかんとする少年を制止した。 少年は馬を連れている。旅人にしては荷物が少ない鞍の脇には、一目でわかるくらい大きな本が結わえられていた。そして鞍の背には血と泥にまみれたヴラドがだらりと横たえられていた。気を失っている。 少年は立ち止まって振り返った。制止された馬がふしゅる、と顔を振る。 馬が揺れたせいか、横たえられたヴラドの顔から、乾いた黄色い土の上に血がボタボタと滴り落ちた。 「なにか問題でも?私は急いでいるんだ。正当な代金は支払ったはずです。この人は僕のものです」 少年は焦っていたが努めて淡々と答えた。声色は少年のそれだが、 その声の奥にラガルトは森の奥の湖のような静けさと昏さを感じ取っていた。 「あの代金はオオカミ一匹の値段にしては少々奇天烈な額だ…何か後ろめたいことでもおありなのですか?『あなた方』には」 「先ほども言いましたが正当な金額ですよ、仰る通りこれは『我々』の責任です、しかしあなたのあずかり知るところではない」 「残念ながらその門を出るまではここは私の城だ!秘密を教えて頂きましょうか」 ラガルトの背後から屈強そうな傭兵たちがぞろぞろと出てくる。グリモワールと呼ばれた少年は小さくため息をつき、羽織っていた茶色い外套から片腕を出してつぶやいた。 「あまり欲を出すと身を亡ぼすぞ、下等な鬼畜ども」 『また』闘技場にいた者どものように眼を閃光呪文で潰すのは容易いが、追ってこられてもつまらない。適当な数の敵を消し炭にできる呪詛を適当に選び出して唱えようとした瞬間、背後から吹いた黒い突風が真横を通り過ぎた。 そしてそのままラガルトの後ろに立っていた傭兵に組み付き、まるで調理されたチキンを齧るがごとく顔を食い破った。余りの事態に悲鳴も上がらない。 傭兵たちが声を上げるまでに、死体から奪った剣で素早くラガルトの片腕を切断した。 驚き呻き声を上げてひざまずくラガルトだったが、取り囲みとりあえず剣を抜いたが生唾を飲みこむ傭兵たちは身動き一つとれずにいた。 (あの傷であれだけの束縛かけてなんで動けるんだ?まさか最初から人間じゃなかったんじゃないだろうな?どうしよう、この場はまた気絶させて連れて逃げるしかないか…) 少年が考えを巡らせている間に、ヴラドはひざまずくラガルトの首めがけて剣を振りあげたが、大量に血を噴き出した。首輪からは黒い蒸気のようなものが立ち上り、いたるところから真っ黒な血液がとめどなく溢れ出している。それでもなおよろめき唸り声をあげて剣を振りあげようとする。 「ウぅ…ごボっ、ころ、ごロズ…あに、きノ」 剣を振り下ろす前に、少年の指先から迸った稲妻がヴラドの首を撃った。白目を剥いて昏倒する。傭兵たちが一斉に振り返った。 「主人が死ぬぞ、早く失せろ犬ども」 威圧の呪詛を唱えながらじりじりと間を詰める少年は、衛兵たちの眼には今や巨大な悪鬼として映っていた。慌てた傭兵たちはラガルトを背負って闘技場へぞろぞろと消えていく。 少年は念動力で倒れていたヴラドを持ち上げて乱暴に鞍へドサリと戻すと、荒野へと消えていった… あとがき: 時間ないけど走り書きでもいいのでどうしても続きを書きたかったので端折りに端折って強引に(雑にともいう)終わらしました。おれはまだ走るぜ!この果てしないヴラド坂をよ…!
帝国広報 マシュー「ふむ・・・もういいだろう。ジルキオ。解放軍に使者を送れ。平和的に話し合おう。 和解の道を共に模索するのだ」 マシュー「しろっこ、エルフ領にも使者を送れ。講和会議を開きたいと通達するのだ」 帝国暦○○年 四月一日 帝国執政 マシュー Q:この話は信じられる?
むかしむかし あるところに いっぴきの 小さなけものが いました。 ネコくらいの大きさで空の色がすけるトンボのうすい羽と、頭には2本のつの、体は真っ赤で、空をとぶとてもふしぎな生き物でした。 そのけものは自分のことを「カーエデール卿」と呼んでいました。卿は言葉をしゃべり 世界中をとびまわって、いろいろな人たちと話をしました。 この世界には、人間、エルフ、鳥人、獣人、ドラゴン、吸血鬼、かいぞうされた生物…いろいろな生き物がいました。卿はいつも不思議に思うことがありました。 「どうして皆いっしょに生きてるのに、仲良くしないんだろう?」 ふしぎなけものである卿にとってはそれが自分以上にふしぎでなりませんでした。 ラース帝国にいくと、きっちりした制服に身をつつむ人間たちがいました。きれいな衣装に卿はうっとりしました。帝国をふよふよと飛んでいると、お城の高いところにある窓際に、ひとりさみしそうな人間がいました。 「こんにちは」 卿が声をかけると、驚いた様子で目を真ん丸に開きました。そしてゆっくりとその人間は卿の姿を頭のてっぺんからしっぽの先まで見つめ、 「…あ、あなたは?」 と話しました。少年の姿をしていましたが、声は少しばかり高く、卿もふしぎそうにその人間を見つめました。 「吾輩はカーエデール卿。貴殿は?」 「…この帝国の皇帝だ」 目線をはずし、そうつぶやいた彼は皇帝というにはあまりにも幼いように思えました。そして、あまり幸せそうに見えませんでした。 「皇帝?ならなぜそんなに寂しそうな顔をしているの?…この国は吾輩が見た中でも一番栄えてるというのに」 卿の言葉に彼はフフッと笑い、また目に憂いを浮かべた様子で卿に向かいました。 「…さあ、どうしてだろうね。卿に…話しても何も変わりはしないだろう」 カーエデール卿はむかむかしましたが、それよりも彼の寂しい顔が心配になりました。この素敵な帝国でも一番偉い人がこんなに寂しそうにする理由、なにかあるのだろうか。 卿は心の中にもやもやがあふれていきました。同じ人間が暮らすこの帝国の中でも、皆が仲良く暮らしているわけではない。そう見えたのです。 (同じ姿でいるのに、この人間の心はひとりなのかな。) 卿は皇帝の寂しさを少しだけ感じて、頭を下げ、そっと窓際から飛び立ちました。 姿かたちだけの問題じゃないんだと思いながら、もっとふしぎな姿の卿は心のどこかで吾輩の本当の居場所はどこだろうと、またもやもやと考え込んでしまいます。 夜になり、月明かりが世界中を照らし始めます。キラキラと静かに海面に照り返す月光が、カーエデール卿は好きでした。ぼんやりと海辺でその様子を見ていると、ズズズ…と大きな影が卿に覆いかぶさってきました。なんだろうと横を向くと、すぐ隣にそれは大きな船が岸に上陸していたのです。その船は立派ではありましたが、よく見ると船底はいたんで、すこしおんぼろな船でした。 卿はふわっと飛び上がり、船上にだれかいないか様子を見に行きました。すると、大の字に倒れている男が二人。甲板にいるのが見えました。 あわてて卿は近寄って声をかけます。 「だいじょうぶ?ねえ、…だいじょうぶ??」 卿の声を聞いて、小さく唸る青年。月光に照らされた髪は金色の少しのびた短髪で、肌は褐色に焼けている…身なりから若い船長のようでした。もう一人は首輪をして、髪の毛が半分だけ白くて半分は黒い変わった髪型の青年のようです。卿はどうしたらいいかあわてていると、枯れた声が聞こえました。 「み、…みず…」 「ミミズ?」 その言葉に脱力しながらも、のどの渇きを訴える彼の姿にやっと気づいた卿は、近くにあった農家から水を拝借して彼の前にビンを差し出します。船長はビンをとり、一口毒見をしてすぐに隣で倒れているもう一人の青年の口に、ビンをあてました。 「ほら、水、もってきてくれたぞ」 一口、一口とゆっくりと水が流れ、のどが動くのが見えて卿も船長もホッとして顔を見合わせました。そして少なくなったビンの残りを船長が飲み、水面に光る月光のようにキラキラと目を輝かせ、すぐにニッコリと笑いました。 「ありがとう、赤いの!なかなか島に到着できなくってな…やっぱ海は甘くねえや」 「よかったね。…あの、あの人はだいじょうぶ?」 赤いのと呼ばれ、卿はきょとんとしたが、彼はあまり卿を見て驚く様子はないようでした。あたたかな笑顔に心がほっこりとしました。 「大丈夫だ、問題ない。あいつはそんなヤワな男じゃないぜ。…まあ水がなくなったときはさすがに焦ったんだけどな」 「海に水があるのに?」 卿がそういうと、船長はハハハと笑い出します。 「あんなの飲んだらのどが焼ける!ま、ちょっと準備不足だったみたいだ」 準備不足という言葉に卿は疑問に思いました。普通の漁師さんならきっと航海の想定はしているんじゃないのか、それに水が尽きるほど長く船を出すことは少ないんじゃないだろうか。卿はそう思ったのです。 「船長さん…は、漁師さんじゃないの?」 「?ああ、わかるか。…俺たちは、そうだな…―――」 「おい、…そんなよくわかんねーいきもんに言う必要ねえだろ」 後ろから突然声がして、卿はびくりとしました。さっき倒れていた青年が起き上がってきたのでした。 「お、ヴラド。もう大丈夫か」 「ったく…んだよ、だからあのルートやめとけっつったんじゃねーか」 少し怖そうな人間でしたが、船長が嬉しそうに話しているのでそこまで悪い人間でもないのだろうと卿は思いました。 「あーそうだっけ。まあこうして助かったんだし!そうそう、この赤いのが俺たちに水、持ってきてくれたんだぞ。よくわかんねーいきもんとは失礼じゃないか」 「アンタもその羽虫、赤いのっつってんだろ。それは失礼とはいわねーの?」 「はむし…」 卿は(やっぱりこの人怖い)と思いました。 「ごめん、恩人さん。ほんとに助かったよ。俺はジェイド。君は?」 すっと手を出して握手を求めているようでした。船長の手に卿はちいさな手を伸ばし、握手をすると、にっこりと笑っていいました。 「吾輩はカーエデール卿だよ」
【名前】ハーディア・ロート(Hardia・Rot) 【性別】女 【年齢】人間換算30代中盤 【種族】エルフ 【所属・役職】王室専属家庭教師 【性格等設定】 真面目かつそれなりに冗談もこなす穏やかな気性の持ち主。 堅物に見られることも少なくないが、マイペースな王族兄妹達の振る舞いもそれなりに楽しんでいる。 特に姫君の脱走報告は楽しみの一つで、彼女の見つけてくる不思議なものの話が一番好き。 【備考】 濃い緑の瞳。赤毛を高い位置で結ってまとめている。 教育係として任命されるまでは外交官としての任についていた。 嗜みとしてある程度ならば剣を扱う事もできるものの、本職には遠く及ばない。 もっぱら頭脳担当で、王族兄妹達に自身の知り及ばぬ事を質問されてもすぐに答えられるよう、 分厚い辞書を常に携えている。ごくごくたまに武器にもする。 いい加減適齢期もいいところだが、今は自分の幸せより姫君の幸せが優先。 手のかかる、もとい手のつけられない弟がいる。 【ステータス】 ★HP:150 ★MP:250 *攻撃力:10 *魔力:50 *防御力:20 攻撃方法:魔法
長くなったので前後分けます。後編はまとまり次第投げに来ます。 「だから、何度も言わせんなよ、その気はないって言ってるだろ」 もう何度目だ、こうやって花街で袖を引かれるのは。それも一夜の誘いではない。こんな痩せっぽっちな子供が女を買うような金を持っているはずもない。店に並べというのだ。小奇麗に飾られた艶やかで淫らな女と同じぐらい高値のつく、色物の花にしようという心づもりで、こうして身寄りのない子供に声をかけているのだ。まだ無理やり攫ってしまわないだけ、随分良心的だと言えた。為政者は政治に関心を失い、この国はひどく傾いていた。そんな中、取締もろくに行き届かない花街で人道的な取引をもちかけてくるなど、店の歴史に自信があるか、懐に余裕がある商売上手といったところか。だがしかし、女を物のように売り買いする人間に対する少年の不信は大きかった。男を買おうという者の気もしれない。今日もこうして計算高い手を突っぱねて、目尻のきつい大きな蒼い目で女衒を睨む。その勝気で初心な表情は整った顔立ちを歳よりもやや幼く見せ、今から店に仕込んでも何年かは使い物になりそうだと思わせてしまうことを少年は知る由もない。だが美しい花は枯れるのも早いということを考えないほど、少年は愚かではなかった。ここでいくらか稼ぎが良くなっても、二十代も半ばの歳になれば売り物にならなくなる。そうすれば体を売るしか稼ぎ方を知らない者の末路など決まっている。惨めな凋落と破滅だ。そんな死に方をするなら、綺麗なまま野垂れ死んでやると、少年は不器用な高潔さを胸に、まだ引き止めようとする女衒を無理やり振り切る。揶揄の言葉と嘲笑を背に受けながらうつむき加減で唇を噛んで大股で裏通りを飛び出したところ、前を見ていなかったことも手伝って、脇道から出てきた男と派手にぶつかってしまった。たたらを踏んで、叩きつけそうになった悪態をすんでのところで飲み込んで見上げた人間はまだ歳若く、随分背の高い男であった。 「すみません」 下手に絡まれたくないという思いもあり早口に謝って脇をすり抜けようとすると、その青年が肩を軽く掴んで引き止めてくる。 「ねえ君さっき…」 「なんの用だよ…!」 また声をかけられる。一日で二度という事実は少年の事を荒立たせたくないという気持ちを吹き飛ばす。肩に置かれた手を乱暴に叩き落として振り返り、なにか罵ってやらなくては気が済まないと振り仰いだ青年の目を見て、少年は小さく息を飲んだ。 突然声を荒らげた子供に少し呆れ気味の驚きの表情を浮かべて面白がるように唇を緩ませたその青年の瞳の色は、否応なく血の色を連想させるほどの純粋な真紅。体の色素を持たない白子に赤い目が希に現れるというのは聞き知ってはいたが、本物の紅い瞳を目にするのは初めてであった。少年の凝視を感じ取ったのか、男は悪戯っぽく瞬くと長身をかがめた。 「この目が珍しいかい?」 軽薄で人懐っこそうな笑みが唇に張り付いていたが、細められた目に浮かぶのは妙に空々しい熱のない表情、あるいは空虚さ。その寒々しさに少年はたじろいだ。 「みんな大抵、初めはそういう反応をするね」 そう言ってどこか自虐的な調子でまるで人ごとのように言い捨てる投げやりさに気圧されたことが悔しく、少年は背筋を伸ばして男を真っ向から見上げた。そうしてみるとだらしなく気崩れてはいるものの身につけている物は仕立ての良さそうな上着や手触りの良さそうなシャツなど、明らかに貴族か、あるいはそれに準ずる裕福な上流市民出身であることを示していた。客引きでも女衒でもないなら、この町の客だ。肩にかかるほど伸ばされた明るく線の細い金髪と、目鼻立ち一つ一つは穏やかで柔和な作りだが少しばかり粗野な表情も相まって、まるで結婚詐欺師のようだなと少年は内心ひとりごちる。 「で、何の用だよ。俺は売りはやってない」 「買いに来たってのはわかるんだねぇ」 「あんたみたいなのがこの街ですることって言ったらそれぐらいだろ、お貴族さん」 「喧嘩っ早いかと思ったら、存外に人を見る目もあるようだね」 えらいえらい、と馴れ馴れしく頭を撫でる手を少年に忌々しげに叩き落されて、青年は苦笑いを零した。 「だけど不正解。君みたいに小さい子に手を出すほど外道じゃあないよ。さっきの勧誘みたいなの、よくされるのかい」 どうやら見られていたらしい。不躾な質問に少年はぶすくれる。どうせ細くて白くて男らしくないとでも思われているのだろう。 「時々。でも全部断ってる」 つっけんどんに答えにも、青年の熱を映さない態度は変わらない。 「君みたいなのは高値がつくから、売る気がないならこんなところ、出て行った方がいいだろうね。何処の店もああいう紳士的なやり方とは限らないから」 「今のこの国じゃどこに行ったってろくな仕事なんてないよ。特にこんな痩せたガキができることなんか何もない。こうやって人が沢山いるところのほうがまだマシだ」 言い募るうちに妙に腹立たしい気持ちになってくる。腹が空けば気が立つが、それ以上に成長期だというのに栄養が足りないせいか背が伸び悩んでいる自分と、目の前の男の惚れ惚れするほど恵まれた体格を比べて、いったいこの男と自分の境遇を分けたのはなんだったのかという実のない疑問に苛立ちが湧き起こる。 「悪いけど、あんたの同情じゃ腹は膨れないんだよ。あんたはこうやって名前も知らないガキに同情おしつけてりゃ満足かもしれないけどな、まだ金のほうがありがたいよ」 特に急ぐ用もないせいもあって、強く話を遮ってこの場を立ち去る理由が見つからなかったせいか、言うつもりのないことまで口をつく。せめて仕事があれば良かったが、それさえも心もとないというのに、この遊び呆けていることを許された身分の青年と同じようにここに立ち止まって時間を無為にしている。青年はそんな複雑な心境を知ってか知らずか、おもむろに上着のポケットに手を突っ込むと、一枚の硬貨を引っ張り出して、二人のそばに積まれた木箱の上に静かに置いた。その色に少年は思わず目を奪われる。 金貨だった。 少年がそれなりに安定した幸せな家庭で暮らしていた頃でさえ、そうそうお目にかかれるものでなはい、最も重い金貨だった。 「じゃあ名前を聞いても?」 金のことには触れず、青年はそう聞いた。道を尋ねるような気軽さだった。それに少年は無理矢理視線を金貨から引き剥がし、剣呑な目で睨めつけた。 「断る。教える義理がない。それにこんなもんいらない」 「そっか」 それだけ呟いたが、青年は金貨を引っ込めることはぜず、相変わらず冷めた目で飢えた野良犬のような少年を見下ろしていた。青年が何かを思いついたように口を開きかけたとき、表通りから女の声が掛かる。 「ねえ、ジィーベン、何をしてるの?」 その婀娜っぽいふしだらな声に少年は盛大に顔を顰めた。あからさまな表情に思わずといったふうに青年は苦笑して、女の声にすぐに戻ると返してから、身をかがめて少年に抑えた声で囁く。 「貴族街外れの3番地、若いのを探してる偏屈がいる。身売りは無しだけど、多分他のどんな仕事よりもずっと厳しい。だけど君みたいな子が、相応しいかもしれないね」 青年はそれだけ一方的に伝えると、ふたたび少年のくしゃくしゃの黒髪を乱雑に撫でるとぽんと軽く叩いて、払いのけられるよりも早く身を引くと、ひらりと手を振って待たせている女のもとへと去っていく。 残されたのは煤けて色あせた木箱の上に、不似合いな金貨。鋳造からそう年の経っていないであろう、縁も刻まれた皇帝の横顔もくっきりとした黄金。それ一枚で、少年は食いつなげる、誰のものでもなくなって、今はただ石ころのように転がる贅沢。あの青年にとってはおそらく人肌で、少年にとっては暖炉で、この寒々しい夜を凌ぐことのできる金色の気まぐれ。 だがそれを手に取るのは、少年にとっては敗北に思われた。何に負けるわけでもない、ただ道端の石を拾うような事でも、決定的な敗北であるように感じられた。それから目をそらし、立ち去ろうとするが、足がひどく重かった。歯を食いしばり、脳裏に焼き付いた空虚な紅い瞳の残像を追い払い、少し裏路地を進む。振り返ると、まだそこにある。いずれ誰かが見つけて、信じてもいない神に幸運を感謝して、なんの葛藤もなく持ち去るのだろうか。そう考えると、こうして未練を感じる自分を棚に上げて腹立たしさを覚えた。ふと少年の胸に、預かっておくだけだ、という考えがよぎる。それも所詮言い訳に過ぎなかったが、次に会った時に落し物だと言って返せばいい。いや、叩きつければいい。同情なんて糞くらえだと、そう言って笑ってやろう。 くだらない意地だと自嘲する自分を感じながらも、それは随分名案に思われて、少年は足早に取って返すと金貨を素早くつかみ、誰にも見られないようシャツのポケットに押し込んだ。 ずっしりと重い感触が胸に伝わったが、その場を立ち去る足取りは幾分勇み足であった。 貴族街外れの3番地。少年は金貨一枚よりもずっと価値のある者を青年によって与えられたことを、まだ知らなかった。 《前編完》
その日は、百年に一度と言われる嵐が島全体を包んでいた。 豪雨と暴風が、木々をなぎ倒し、そこかしこに暮らす生物の生命を脅かす。まだ日中であるにも関わらず、深夜のように闇に包まれた空に時折猛烈な雷光、即座にバリバリと音を鳴らし天地にヒビ。天から落ちたのか、はたまた地上から生えたのかわからない、恐ろしい数の稲妻が走る。 「素晴らしい!!今日をおいて他にこれほど最高の日和はないである!!」 天地を揺るがすかのような騒音に歓喜の声を上げたのは、この島にある科学班の博士・ツバキであった。帝国領の付近に浮かぶ島(とはいえ、どこの領地にも属さない無人島である)に、科学班はある。元々どの種族も暮らしていない緑豊かな無人島であったが、俗世から離れ実験に没頭するためだろうか、博士はここを本拠地として日夜怪しげな実験を行っている。他の国々や、種族達には到底作ることは不可能であろう機器が研究所に所せましと設置されている。博士の科学力や技術は外界と同じ時間が流れているとは思えないほどだ。その力を我が物にしたいと要求する国は後を絶たない。 「雷からのエネルギーは本日予定している強化実験へ有効に利用できるかと思われます。現在エネルギー質量および充填量を計算中…」 涼やかに話す女性の声…恐ろしく透明度のあるその声の主は、試作4号“D”。しなやかに指先を動かし、空中に浮かぶ透過した画面を見つめ何らかの計算をする。腰まであるサラリとした銀の髪、鼻筋の通った整った顔…、海面に緑のインクを少し垂らした雫をそのまま閉じ込めたような瞳は、まばたきすらしない…彼女は博士に作られた人造人間だ。 美しい肢体の色は銀色に光り、雷光の度にキラリと照り返す。彼女がはじき出した数値をみて満足そうに博士は頷いた。 「うむ、何もかも予定通り!吾輩の予想が的中したであるな」 眼鏡を押し上げニカッと、さも嬉しそうにギザギザの歯を見せて笑う博士に、少しばかりため息をついて残念な表情を浮かべてみせる、もう一人の人物…-。 「ええ、賭けは吾輩の負けのようです。さすがはツバキ博士」 ボサボサと伸ばしっぱなしになった朱色の長髪が印象的な彼は、ツバキ博士の助手・マガトキであった。ひょろりとした長身に長く伸びた手足。切れ長の瞳は金色に光り、厚みの薄い唇には普段から微笑をたたえているせいか、先ほどの曇った表情もすぐに消えていた。彼には少し特徴のある箇所がある。耳の部分には蜻蛉の羽のようなものが3対生え、額には角が1対。異形の者特有の風体であったが、以前はそこらにいる人間たちと何ら変わりのない好青年の姿だった。科学班に入り、人体実験を幾度か自身にも施した結果現れた症状だという。 「そうであろう、フフフ、さあ、今日こそは件の実験、成功させてみせるである!!!」 ツバキ博士は興奮ぎみに目を見開き、豪雨で荒れ狂う外からの音さえかき消すほどに大声で叫んだ。 生物実験は毎日のように行っている。被験者の強化、合成、…材料となる生物は比較的たやすく準備できる。奴隷の売買が日常的に行われているのだ。場合によっては国家の兵士強化をと、進んで提供してくれる某国もある。 しかしこの日生物実験する対象は、少しそれらとは違った。 科学班で細胞から作られ、大きく成長した人造の獣。獣とはいえ、知能も高く筋力はケタ違いに強い。獅子のような姿に額からは水牛のごとく巨大な角が生えている。全身は、赤褐色の体毛で覆われ、見るものを圧倒させる巨体であった。名前はカーエデール。博士は敬意をこめてその獣を『卿』と呼んでいた。 「博士」 重低音でボソリとつぶやく。実験を行うため、ベッドに横たえられた獣は目を細め博士を呼ぶ。 「…卿、大丈夫である。これからさらに卿を強く、そして希望通り翼を授ける準備は万端である。吾輩に任せるである」 ゆっくりカーエデールの額を撫でて笑う博士に、獣は嬉しそうに鼻をフフンと鳴らした。そして真似るように博士の髪を撫で、彼の言葉に安心したように瞼を閉じ、深く息をした。 マガトキは様子を見ながらカーエデールの肩付近から麻酔効果のある薬剤を打つ。 「科学班のためにこの身体、捧げる所存。信じていますよ、ツバキ博士」 それだけ言うと、静かに眠りについた。 「脈拍正常、血圧は通常よりやや低めです」 Dが淡々とカーエデールの状況を説明しながら、記録していく。まったく無駄のないその動きはさすが人造人間といったところだろうか。ツバキとマガトキは目を合わせ、術式用の手袋をパチンとはじいた。実験開始の合図だ。 背部に“翼”になるだろう小さい羽根とピンク色の肉塊をねじ込む。縫合しながらDからの情報を聞く。その後、今度は横腹から少し刃を入れ、皮下をめくる。脈動する臓器に新たな生体装置を取り付け、縫合。 何もかも順調に進んでいた。 ――最後の仕上げをする、その瞬間までは。 「さあ、総仕上げである。エネルギーの準備は?」 「すべて完了しています。」 「よし、マガトキ。解放装置を」 「エネルギー解放。カーエデールに注入します」 瞬間。 強烈な光が研究所内を包んだ。 否、光だけではなかった。轟音と共に青白い閃光は研究所の装置すべてを起動停止にさせ、カーエデールと助手であるマガトキを貫いてしまった。 「卿!!」 博士は叫んだ。閃光のせいで眩暈がする。耳も先ほどまでの豪雨で騒がしかったのに突然の轟音の後、無音のようになった。自分自身の叫びも、体内の底で響くだけに思えた。 じわりじわりと耳鳴りが起こり、通常の音になるまで時間がかかった。 「卿!!」 博士はもう一度叫ぶ。今度は声が聞こえる。長いまつげをぐむと瞑り、目が慣れるのを促す。必死で目を凝らすと、傍らに倒れるDの姿があった。 Dは、ほかの装置同様、強烈な閃光の後自力で動くことができなくなっていた。衝撃で記憶装置にも支障をきたしたのかもしれない。エラー音を鳴らしながら、博士に訴えている。歯をギリっと食いしばり、彼女の電源を落とす。 「少し待っているである…」 博士は三色に分かれた自髪をガシガシと掻いて、苛立つ様子を見せた。部屋の最奥部でバチ、バチと装置が鳴り、その奥から焦げたようなにおいが漂ってきた。 ソレは、黒鉄色をした咆哮する獅子の彫像。 ――いや、彫像ではなかった。 絶句しながらも、心のどこかであまりの美しい形状に歓声をあげたくなる。それほどに、その黒鉄色のソレは、獣そのものの姿をしていた。しがみつくようにする人型も、そこにあった。 「卿…」 博士はそっと手を伸ばした。指先が、一瞬触れる。 途端に、黒鉄色の彫像はボロボロと崩れ、砂山のように足場に積もる。あわててかき集めるけれど、握りしめるとただ手のひらを黒く汚すだけで、何もつかむことは出来なかった。 すべてが灰になった。 それを認識したのか、自嘲するように狂気じみた笑いを浮かべた。すべて失ったのだ。 嵐はまだ止んでいない。騒音の中、徐々に落ち着きを取り戻した博士は、ふと灰の山に何かがあることに気付いた。 (――また崩れてしまう) 一瞬躊躇して、手を引っこめる。すると、もそりと山がうごめいた。 別室の実験動物がまぎれたのだろうか。 さらにもそりもそりとうごめき、灰の山から赤いものが見えた。 「…手?」 驚きながらも急いで灰をどける。そこには全身が緋色のつるりとした肌に、頭に1対の角をもつ、小さな生物が丸まっていた。 その姿は胎児に似ていた。 よく見ると背中に薄い羽根をもち、長い尾のある猫のような生物だ。 「卿?まさかカーエデール卿なのであるか?」 博士がそういうと、丸まっていた生物は起き上がり、ぼんやりとした糸目で見返した。 「…吾輩…、よくおぼえてないけど、ツバキ博士のことはわかるよ」 にこりとして微笑むその顔は獣ともまた別の誰かにも似ていたが、博士にはそれが誰だったのが思い出せない様子だった――― 「…これが、あの日起きたことですよ」 口元に微笑をたたえながら、ゆっくり話し終えると彼はツバキ博士に視線を合わせた。 「…では…、その、君が助手の」 「ご無沙汰しております、博士。嗚呼…やっと再会を果たすことができました」 博士は目をぱちくりさせてもう一度、“助手”と名乗る男の姿を頭からじっくりと見回す。 ――やはり覚えがない。たしかにあの日、雷の暴走で閃光を浴びた記憶はあるが… 「いや、待つである。その話だと獣であった卿と助手は消し炭になったのであろう?なぜ…その…、君は」 「今は新月卿と名乗っております」 「あ、ああ、そうであった。なぜ何のケガもなく…生きた姿をしているのである?」 博士の問いに少し落胆した様子を見せる男…新月卿であったが、すぐにまた微笑を浮かべた。スッ…と眼差しを外に向け、静かなる闇夜を見つめる。 「貴方は吾輩に吸収する力を授けてくれた。吾輩は閃光が起きた瞬間、衝撃でカーエデールの身体にしがみつく形となったのです。閃光は吾輩たちを包み、焼き焦がしていった…その時、吾輩の一部がカーエデールと一体化し、今のカーエデール卿が生まれた。彼のものが日々過ごすにつれて、生み出す細胞を吾輩が少しずつ吸収し、吾輩は体内でひそかに再生を目論んでいました。 貴方も知っているでしょう。あの子は月の光で生命力を維持していることを。月が欠けるにつれ、あの子は徐々に眠りにつく時間が増える。そして、今宵のような新月の日…吾輩は新月の日のみ現れることができるようになったのです」 静かに、淡々と話す彼の横顔は夜空をぼんやりと見つめ、少し恍惚とした表情をみせていた。外からは涼やかな風が木々の葉を擦る音が聞こえる。 「そうであるか。…うむ。よくぞ戻ってきたであるな」 「ええ、まだ賭けの配当をいただいていませんから」 新月卿はそういうと、博士ににじり寄った。博士はギクリとして椅子から転げ、そのまま壁際まで追いやられてしまう。 「な、…ま、まて!その賭けは吾輩が勝ったのであろう?!」 息がかかるほどに近距離まで詰め寄られ、視線をあちこちに反らせて逃げ場を探す博士の姿にうっとりとしながら、新月卿は両手を壁に這わせて動きを封じる。 「いえ、残念ながら吾輩が勝たせていただきました」 唇が触れるか触れないかの距離で、さらに続けた。 「貴方はこう、言いました。『今日こそ記憶に残る偉業を吾輩が成すのである!どうだ、賭けてみるか、マガトキ』」 新月卿はそうつぶやくと口元に微笑を浮かべた。博士はただ、目を泳がせることしかできなかった。