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長くなりそうなので幾つかに分けます。 ちょっと変な設定も盛り込んじゃったのでダメだったら言ってね^^; -------------------------------------------------------------- 時間を少々遡ろう。 夢幻のごとく。 幻夢境をさ迷うがごとく・・・ -------------------------------------------------------------- 女性「この辺のはず・・・・」 闇の中、あたりを伺うように慎重に歩を進める女性。 すえた空気が当たりに満ち、薄汚いボロ家が無作為に軒を並べる。 ダウンタウンの一角だろうか? 後ろからそっと声がかかる 兵「お気をつけください。メルダ様。何か・・何か嫌な予感がいたします・・・」 兵といっても別に兵装に身を包んでるわけではない。 極めてありふれた平民の服だ。 だがその身のこなしがただの平民ではないことを物語る メルダ「大丈夫。私の強さは知っているでしょ?」 長い髪を後ろで縛った黒髪の女性 闇の中でははっきりは見て取れないがそれでもなお微かにこぼれる月の明かりが彼女の抜群の プロポーションを浮き彫りにする メルダと呼ばれた女性はそっと後ろを振り返ると微笑みかけた。 兵「しかし・・・この様な任務、わざわざメルダ様が行われる事とも・・・」 ふっと笑うとメルダは答えた メルダ「確かにね・・・魔術師の私が密偵の真似事なんて、笑えないわね。 でもね、だからといってマシューに任せられると思う?」 とは言うものの彼女とてローブに身を包んでいるわけではない 裏路地の密偵のような任務。さすがにこの任務には彼女もローブは向いていないと判断したので あろう。 兵「それは・・・・」 メルダ「あー見えてもあの人衛兵長だしね。それに・・・結構がさつでいーかげんだから、任せてたら 今頃ドジ踏んじゃってるわよ?」 さすがに自分の上官をこうも言われては兵としても苦笑せざるを得ない 兵「い、いやそのそれは・・・確かに色んな意味で体長は顔を知られすぎてますが・・・・」 メルダ「この辺なのよね?」 さすがに兵に気を配っただけではなかろうが、そういって話を切り替えるメルダ。 兵「はい。確かに情報ではこのあたりです」 メルダ「エルフがおかしな企みをしてるって話だけど・・いまだに信じられないわよ。邪神の召還なんて」 露骨に繭に皺を寄せ嫌そうな顔で兵は言う。 兵「あの高慢ちきなエルフ共です。神をも使役できると思ってるのでは?」 メルダ「まさか。確かに彼らは高慢な所はあるけど・・私の知り合いのエルフにはそんなのいなかったわよ。 ・・・・変なのはいたけど」 メルダの言葉に思わず意外と言わんばかりに目を丸くする兵。 兵「変なの・・ですか?」 メルダ「金髪でとがった髪型したエルフでね。”バイアズーラ”だかなんだか良くわからないことしか言わなかったけど・・ 決して変ではあっても悪いエルフではなかったわよ?」 こんなエルフは想像もしなかったのであろう。少々渋面で言う兵。 兵「はぁ・・・それはそれで”すったっぷ”でもしないと困るような気もしますが・・・」 メルダ「まぁね・・・あなた達自身元々マシューから巻き上げ・・いいえ、借りて来たとはいえ、衛兵だものねぇ。 そう思っても仕方ないわ」 兵「まぁそれが仕事・・・」 突如口に指を当て沈黙を促すメルダ ザッ・・ザッ・・ザッ・・ 歩を進める足音。 声「おやおや。随分と心外な言われようですなぁ・・・でて来られたらどうかな?判っておるのですよ」 あきらめたかのようにゆっくりと顔を出すメルダ メルダ「やっぱりあなただったのね。シ・ゲル。こんな酔狂な事考えるのはあなた位だとは思ってたけど」 まさに以外と言える顔でシ・ゲルは言う。 シ・ゲル「おや?酔狂とはこれはまた随分な言われようですな。それに役にも立たない雑兵をぞろぞろ 引き連れてこんな夜更けに、こんなうらびれた町をご散歩とは、どっちが酔狂ですかな?」 メルダ「まだ、ダンジョンに入れられない?今度は私がじきじきに帝都のダンジョンに放り込んであげよう かしら?」 シ・ゲル「おやおや。怖い怖い。淑女にそんな顔をされては小心者の私としては怯えるしかないですな」 といっていてもシ・ゲルに怖がった素振りはまったくない。 寧ろ彼女を小馬鹿にしたようにオーバーに肩をすくめて見せる。 メルダ「この後に及んでしらばっくれるつもり?邪神を召還している者がいるという噂があるわ。あなたも一枚 かんでるんじゃないの?」 シ・ゲル「それはどうですかな?こちらもそちらの動きは把握しておるのですよ」 そういうと物陰から何人ものエルフが顔をだす。 兵1「くそ・・シ・ゲルだけでもいい加減薄暗いのに・・・」 兵2「この場合こげ茶だと思うが・・ダークエルフだし。それになんだあのダークエルフの数は・・・」 兵3「1・・2・・3・・・ざっと見積もっても20人以上か・・・」 兵4「・・これじゃぁ・・メルダ様・・」 兵達に動揺が走る。 メルダ「・・・・・やっぱり・・・こんな事だろうと思ったわ。でもこれではっきりした。私は誰もあなたが邪神を召還 しているとは言っていないわ。それでこれじゃぁ罪を認めたような物よ」 ハナから隠すつもりもなかったのだろう。 以外にも驚いた素振りさえ見せないシ・ゲル。 シ・ゲル「これはこれは。失策でしたかな。まさかあなたのような女性にカマ翔られるとは・・・とはいえ、こんな ダウンタウンです。人一人いなくなってもおかしくはない。どこぞの盗賊の仕業でしょうとも。 ・・・・かかれ」 そういうとエルフ達が向かってくる。 兵「お逃げください!メルダ様!この場は我々が!」 メルダ「そうは行かないわ!あなた達はだれかこの事をマシューに伝えて!」 メルダ達の間に緊迫が走る。 兵「しかし!」 メルダ「く・・・そう簡単にやられはしないわ。ターイラー ターザンメ ウォウアリフ イェーター! 光の嵐よ!我、今その戒めから解き放たん!疾くわが前の敵を討ち滅ぼせ!」 呪文を唱えるメルダ。 爆炎が広がる。 そして・・・ メルダ「・・・やった?」 だが、このセリフは往々にしてよくない結果を招くものだ。 シ・ゲル「やれやれ・・・淑女にしてははしたない。夜中に大きな物音を立てるの物ではないですな」 爆炎の中から聞こえてくる声に蒼白となるメルダ。 メルダ「そんな・・・・」 さして驚いた風もなく、服についた煤を手で払いながら言うシ・ゲル シ・ゲル「しかし驚きました・・まさかあなたが外呪まで使いこなそうとは思いもしませんでしたな。 魔術師ギルドの正式呪文以外の禁呪まで使いこなそうとは。 いや、賞賛すべきでしょうかな?おかげで手勢が大分減ってしまった。 まさか開口一番にTILTOWAITを喰らうとは思っても見ませんでした」 口ではそう言うもののシ・ゲルに驚いた風はまったくない。 メルダ「外呪でも最高位に位置する呪文なのに・・・・」 シ・ゲル「ですが、貴女はエルフの呪文耐性を少々侮っておられたようですな。それに我らには 今は神のご加護があるのですよ」 悔しげに唇を噛みながらメルダは言う。 メルダ「・・・っ・・・邪神の魔法結界・・・もうそこまで・・・邪神が覚醒を・・!?」 シ・ゲル「とはいえ、まだ手勢は残っておりますのでな。あなた方を始末するには十分です。 ああ、そうそう。冥土の土産に教えて差し上げましょうか。 我々は結界を張ってあんな小島に貝の様に閉じこもる必要などないのです。 下らん人間などの劣等種族に怯える必要も」 憎憎しげにシ・ゲルを見つめながらメルダは言う。 メルダ「それで邪神を召還して我々を滅ぼそうと・・・?」 馬鹿にするようにゆっくりとかぶりを振りながらシ・ゲルは言う。 シ・ゲル「いえいえ。それはとんだ間違いですよ。力を借りただけです。神の力の一辺をね。 そのために彼が少し動きやすくしただけですよ」 外呪さえ防御する神・・いったい如何様な神なのか・・・ メルダの表情にも若干のおびえの色が走る。 メルダ「いったい・・・何を召還したの!?」 ニヤリ。 まさにニヤリと嗤って・・ まさに最後通告のようにシ・ゲルは言う。 シ・ゲル「盲目にして無貌のもの・・・おっと。あなた方には這い寄る混沌といった方が分りやすい ですかな?」 驚愕に目を見開くメルダ。 メルダ「まさか!そんなものを・・・」 シ・ゲル「そろそろおしゃべりにも飽いてきました。・・・・やれ。」 -------------------------------------------------------------- Part3に続く
長くなりそうなので幾つかに分けます。 ちょっと変な設定も盛り込んじゃったのでダメだったら言ってね^^; -------------------------------------------------------------- 夜の帳。 日はすでに落ち、漆黒が空を染め上げる。 あたりに人通りもなく、静寂に包まれているあたり深夜なのだろう。 そんな深夜にあっては王城と言えど夜の帳に包まれ、人は皆夢の世界へと旅立つ。 まさにそんな夜を表すかのように王城も闇に包まれている。 いや、1箇所だけ・・ほのかに窓明かりが漏れる。 この深夜にいかような理由であろうか・・ 窓明かりが漏れる部屋。 その中では髪をオールバックにした男性が書類仕事に追われている。 ピクリ。 一瞬男の手が止まる。 マシュー「きさまか・・・こんな夜更けに何の用だ?」 まるでそこに誰かがいるように声をかける。 確かにそこには何者かの気配が存在した。 マシュー「手を貸せ。だと?貴様がか?貴様程の者が私に助力を求めるか」 だがろ蝋燭だけが照らす室内でその姿は見えない。 いや・・存在しているのだろうか? ただ蟠った闇の気配が存在するだけだった。 マシュー「ふん・・・私がそんな戯言に手を貸すとでも?」 闇は答えない。 いや、マシューには聞こえているのかもしれない。 マシュー「大体、そんな児戯なら私ではなくても他の”貌”でもできようが」 闇の中、蟠る闇が苦笑したようにも感じられる。 マシュー「なに・・・?」 珍しく露骨に嫌そうに眉間に皺をよせるマシュー マシュー「ほう・・・あの男が・・・」 闇が嗤う。 マシュー「あの男となれば話は別だ」 珍しい・・・事だろうか・・・ マシューの顔が歪む。 静かだが・・・決して隠せぬ深い怒り。怨恨にも似た形相だ。 マシュー「ああ、判っている。私に断れる道理がないことはな。なにせ貴様と同じ なのだからな」 マシューと闇が同じ・・如何に日がなの言動を鑑みても考えにくい事だった。 ぎゅ・・・ 怒りからか・・・・ マシューの左手が強く握られる。 マシュー「そうだ。そのために私は・・・」 -------------------------------------------------------------- Part2に続く
【名前】ユキ 【性別】男 【年齢】16歳 【種族】エルフ 【所属・役職】乗馬が好きだからという理由で騎馬隊に出入りしているが、入隊は断られている 【性格等設定】人懐っこく好奇心旺盛。王城での生活に不満はないが少し退屈している模様。
小話「ある夜の再会」 ある城とある麗しの騎士 静寂。騎士は窓際で月を眺めていた。 仕事の為に客人としてこの城に立ち寄り、3日ほど滞在する予定だったが、どうやら早くも賊が入ったようだ。しかし最初に知らせを聞いてからどれくらい経ったろうか、まだこちらに伝令ひとつ寄越さない。 兵士も大した錬度ではなさそうだった。被害が広がる前に自分で始末する方が早いだろうが、小国の領主に恩を売ったところでこちらに大した益があるわけでもない。 半開きになっている窓のすき間から、冷たい風が吹き込んでいる。 騎士は小さくため息をつきながら、窓を閉めた。 すると突然、背後で扉が勢いよく開け放たれた。 騎士は驚くそぶりも見せず、半身だけ振り返り、肩から扉の方を見やった。 「…様!お伝えいたします!すでに20名近くの兵が…うっ!」 言い終わる前に、伝令と思われる兵士は扉の向こうの暗がりへ引きずり込まれた。短いうめき声のあと、再び静寂が戻って来る。少しの間をおいて、灰色の衣を纏った男が現れた。騎士はそれでも微動だにしない。 賊と思しき男はその場でためらいもなくフードを外した。が、未だ顔の下半分は黒い布で隠されたままだ。見覚えのある銀色の髪、そして意外にも彼は明るい調子で彼に話しかけた。 「よう、久しぶりだな、ねーちゃん。俺のこと、覚えてるかい?今から俺と一曲踊ってくれねえかな。」 騎士は男の顔を見て少しだけ微笑んだ。長く伸ばした黒髪と肩に隠れ、男にその表情は気取られない。騎士はそこでようやく男の方へ振り返り、言った。 「いいや。記憶力には自信があるが、礼を欠いた賊一匹の名まで覚える必要はあるまい。それに私と踊る相手はただ一人と決めているのでね」 おわり
【名前】 マシュー 【性別】 男 【年齢】 三十台後半~40代前半 【種族】 人間 【所属・役職】 公爵位。帝国執政。征夷大将軍という感じかも。 【性格等設定】 冷酷。武より知を好む。この辺は過去とも関係あるようだ。 敵には一切の情け容赦しないが、臣下は家族同様に扱う。 【ステータス】 ★HP: 150 ★MP: 350 *攻撃力: 10 *魔力: 60 *防御力: 30 ただし膝だけは強固な積層立体魔法陣に守られているので、消し炭にされても膝だけは残る 攻撃方法:主に魔法。といっても派手な破壊魔法は使わない。 スネア(転ばす)、スリープクラウド(眠り)、スタン(麻痺)等の状態異常系のヤな魔法系と 地の利を生かして戦う方。 昔は冒険者で傭兵をしていたり、膝に矢を受けて衛兵になった経験もあり、人並みより少しマシ 程度には剣を扱えるが、剣豪と言うわけではない。 趣味:部下いぢり。 他にも秘密があるようで、千の無・・おっとこれ以上は秘密だ。
ツイッターでは書ききれないのでこっちでw ---------------------------------------------------------------------------------------- 暗い部屋だ。 そう広くはない。 暗くて良くは見えないがわずかに明かりに照らされた部分から品のよい装飾が覗く。 おそらくは宮殿か何かの一室なのだろう。 その中央には玉座・・とは思えないが一段高い段がありそこには何人もの人間がいるようだ。 そしてその段と正対するように一人の小男が床に座らされている。 小男は叫ぶ。 男「おのれ!貴様自分が何をしているのかわかっているのか!」 壇上に座る男を見据え小太りの男が吼える。 顔にあざが出来ているあたりは拷問のあとなのだろう。 みれば薄汚れてはいるが着ている服もずいぶんと質のいい物だ。 どこかの貴族かなにかだったのだろう。 小男の見る先・・・叫んだ相手は・・・ オールバックの髪・・・幾分白いものが多く混じっているようだが。 そして鋭い視線を小男に向けている。 壇上の男は冷ややかな視線で見下ろしながら言った。 「もちろんだ。私は私の行いは熟知している。軽率な行動に走る伯とは違うのだ」 壇上に座る男が見下す小太りの男・・伯というからには貴族だろうが、後ろ手に縛られ 床に座らされている。 それでもなお、伯は吼える。 伯「軽率な行動だと!私の行動が!?許されると思っているのか!貴様の行いが!」 壇上の男は言う。 「ずいぶんと元気がいいな。どうやら審問官の働きが悪かったようだ。この件に ついては後でしかるべき対処を行おう」 伯「はぐらかすな!答えろ!マシュー公!」 マシュー公と呼ばれた壇上の男・・・玉座・・ではない。 だが整えられた椅子はそれなりの地位がある者が座る椅子なのだろう。 表情一つ変えずマシューは言い放つ。 マシュー「さて、伯の質問に答えねばならんな。私の行動が許されるかと言う点だが、 それはギベール伯の判断するところではない」 今にも噛み付かんかの勢いで叫ぶギベール。 ギベール「ならば誰が答える!貴様か!己が世界の頂点だとでも言うつもりか! 神を気取るか!マシュー!」 マシュー「私にそんな権限などない。後の歴史が判断してくれよう」 ギベール「はっ!某弱無人に加え責任まで投げ出すつもりか!外道め!」 以外・・・と言わんばかりに少し眉根を寄せつつマシューは答えた。 マシュー「何を言っている?私は私の行いは熟知しているといったはずだ。功も責も すべて私にある。責が勝ればいずれ裁かれよう。それもまた私の責務なのだ。 短慮に臣民を惑わす伯と同じにしてもらっては困る」 ギベール「奴隷制度に圧政!許される事だと思っているのか!人は平等なのだ! だからこそ私は・・・・」 マシュー「人は平等ではない。生まれつき足の速い者、美しい者、親が貧しい者、 病弱な体を持つ者、生まれも育ちも才能も人間は皆、違っておるのだ。 だが、私は平等に扱っている」 ギベール「どの口がそんな戯言を・・・・!」 マシュー「そうかね?帝国においては奴隷は”存在しない”のだ。彼らは”三等”市民だ。 等しく我らが帝国の民だ。 そして、彼らを奴隷扱いし、一人特権を蝕んでいたもの達。彼らにもしかるべき 責務を与えた。 皆、平等に扱っている」 ギベール「三等市民なぞ建前にすぎん!しかもその行動こそが圧政だろうが!」 マシュー「では伯は皆責務を放棄して無責任に生きろというのかね?伯のように。 権利を得るには義務を履行せねばならない。 伯という地位にありながらに騒乱を起こし、テロリスト共に便宜を図る。 これは無責任・短慮とは言わないのかね?」 ギベール「・・・・っくっ!」 冷ややかな目で断罪の言葉を言い渡すマシュー。 マシュー「あげくに臣民に余計な負担と不安の種をまいた。伯の起こした行動が。だ。 この罪は決して軽くはない」 ギベール「私を殺そうというのか。いいだろう!その行動こそが貴様の独善と独裁の証と 民に知れよう!殺すがいい!」 マシュー「私を極悪人のように扱わないでくれたまえ。殺すわけがないだろう。私が。伯を」 ギベール「・・・・・・・・」 マシュー「さっきから聞いていればよくそんな下品な口が回る。 帝国に下品な男は必要ない。帝国に粗忽な貴族はいない。 高貴なるギベール家の伯爵はかの邪悪なエルフ共の姦計に載せられた配下の 失敗の責を自ら背負い、償いのため身を挺した。違うか?」 ギベールの頬に冷たい汗がつたう。 ギベール「・・・・どうするつもりだ・・・・」 マシュー「城のはずれに小さな廃屋があるのを伯はご存知かな?あそこには世を儚んだ者が 夜な夜な迷い出るらしい。どうだ?ゆっくりとかの者と語らってみては。 迷える魂を慰めてやればいい。なぁに”博愛精神にあふれる”伯の事だ。 きっと気に入られよう」 ギベール「!!!」 冷ややかに傍に傅く配下に宣告するマシュー。 マシュー「嘆きの館に幽閉しろ。ギベールの一族もすべて処罰だ。・・・そうだな。斬首に処せ。 首も放り込んでやればギベールとて寂しくなかろう」 配下「はっ。では・・・」 指示を受け行動に出ようとする配下に声をかけるマシュー。 マシュー「まて。この件についてはしろっこに処理させろ」 このマシューの意外な一言に思わず配下は問い返した。 配下「え?しかし、この程度の事、わざわざシロッコ卿のお手を煩わせる事では・・・」 すでに興味を失ったのか次の受刑者の書類に目を通しながら言うマシュー。 マシュー「かまわん。甘い事をしていればどうなるか。卿にもよい教材となるだろう」 さすがにここまで言われると唖然とするしかない。 何せ自分の腹心まで巻き込もうというのだ。 配下「は、はぁ・・・・・」 納得は行かない・・いや、なにがどうなっているのかと狐につままれたような顔で言う配下。 マシュー「引っ立てろ」 引き立てられていくギベール。 そこに声をかけるもう一人の配下がいた。 「閣下。それではギベール家は取り潰しですか」 マシュー「そうだな。ジルキオ。・・・・・いや、まて」 ジルキオ「は?」 マシュー「確かギベールには妻子がいたな」 手元の資料を確認しつつ言うジルキオ。 ジルキオ「え?あ、はい。確かに調書にはそのようになっております」 マシュー「かの者たちは斬首にするな」 ジルキオ「はぁ?」 これにはジルキオも目を白黒させざるを得ない。一体急に何の冗談だ?マシューが急にこんな 仏心を出すわけがない。 マシュー「無論裁かないわけではない。帝国を永久追放だ」 一体これは・・・考えをめぐらすジルキオ。 ジルキオ「!・・・なるほど!嘆きの館で妻子だけが首がなかったら・・・奴めにはこれほどの痛手は ないでしょう!さすが陛下!しかしそうなりますとジルキオ家は取り潰しとなりますな。 ジルキオ家の資産もついでに国庫に没収というわけですね」 マシューの差配に感嘆の念を隠せない。 マシュー「いや。取りつぶしにはしない」 さすがにこの発言だ。配下だけでなくジルキオも目を白黒させる。 ジルキオ「か、閣下?一体何をお考えで・・・・?」 マシュー「この間つれてきた少年がいたろう?」 ジルキオ「ええ、まぁ。しかしそれとこれがどのような・・・・?」 さすがにこの問答に少し辟易したのか、ジルキオを見て答えるマシュー。 マシュー「あの少年を頭首に据えろ。まぁあの年でさすがに辺境伯もなかろうが。後見人を付けさせればいい」 ジルキオ「あの者をですか?正気ですか?閣下?」 マシュー「歳の割に出来た少年だ。育てれば有用な人材となる」 ジルキオ「しかし・・・あの少年は奴隷・・いえ、三等市民ですよ?たまたま陛下が町に出られた際、偶然話された だけではありませんか」 マシュー「なんだ?ジルキオの方では不満か?ならば私が後見人になろうか」 この仰天発言に思わず否定にかかるジルキオ ジルキオ「い、いえ!こちらの手の者で手配いたします!しかし!何度も申しますがあの少年は・・・!」 さすがに据えかねたのだろう。マシューのジルキオを見る目が鋭くなる マシュー「だからなんだというのだ?才がある者を登用する。才に身分なぞ関係あるまい。それだけの事だ。何か不満があるのか?」 この剣呑な雰囲気にさすがのジルキオも折れざるを得なかった ジルキオ「わ、わかりました・・・こちらで手配いたします・・・」 マシュー「すまんな。君には面倒をかけるがよろしく頼む」 ジルキオ「御意・・・・」 マシュー「さて、書類を見てみたが、14番目からは明日の審議で良かろう。それまではジルキオ。貴卿に任せるとする。かまわんか?」 ジルキオ「はい」 マシュー「申し訳ないが今日は先に上がらせてもらおう」 そういうとマシューは席を立った ---------------------------------------------------------------------------------------- 私室・・・なのだろうか。 それなりの大きさの部屋だ。 おそらく一般市民であれば家1軒分はゆうにある。 整えられた部屋で敷かれたじゅうたんや柱の装飾がそれなりの地位にある物が住まう場所である事を物語る。 部屋には品のよい品が並ぶが決して華美ではない。 むしろこの部屋の質感、規模に際して言えば相当に質素に写る。 「・・・・ふぅ・・・・」 疲労困憊とばかりにため息をつくマシュー。 近くのソファーに座り込んだ。 そんなマシューに声をかけるものがあった。 「お疲れ様でした。公爵様。今お食事を運ばせます」 みれば若い女性だが出で立ちからして侍従(メイド)なのだろうか。 マシュー「いや、いい。査問の後、ビヤ樽(ドワーフ)共と話をするハメになってな。おかげで腹いっぱいだ」 そんなマシューに声をかけるメイドがまだいた。 いや、メイドというには随分とたくまし過ぎるが・・・ 「ククク・・・・夜の食事は健康の要!食を抜こうとは何たる不届きご主人よ!だが心配するなご主人! この俺がいる限りいつも主人の健康に全力奉仕!それがこの俺メイドガ・・・」 マシュー「お前は呼んでいない。コガラシ」 そういうとポケットから小さな笛のようなものを出して吹くマシュー。 音は聞こえない。犬笛のようなものであろうか・・・ コガラシ「ヌファァーーッ!」 ズドン! まるで猛獣が倒れるような音がする。 思わず目頭を押さえながら言うマシュー マシュー「連れて行け。君達も今日はもう下がっていい」 メイド「は・・・はい・・・・・・」 マシューは思う (いいかげんこの男も面倒になってきたな。さっさとジルキオに引き渡すべきかもしれんな・・・・) 人気のなくなった部屋でソファーに座っていたマシューはふと立ち上がる カラン・・・ 乾いた音がして何かが運ばれてくる。 グラスだ。 おや?それにしては・・・ マシューが運んできたのは質のいい・・とはとても言えない酒だ。おそらく貴族が呑むような酒ではない。 そしてグラスが2つ・・・ マシュー「久しぶりだな・・・この酒を開けるのも」 トクトクトク・・・ グラスに酒を注ぐ。 トクトク・・・ そしてなぜかもう一つのグラスにも。 マシュー「そういえばこの酒を飲んでふらふらになってはよく君に怒られていたな・・・・」 ゆっくりと口を付けるように少し酒を口に運ぶマシュー。 もう一つのグラスに目をやりながら言うマシュー。 マシュー「ふふ・・・あの頃は私が衛兵上がりの頃だったかな。よく君は言っていたな・・・ ”そんなに呑むから膝に矢を受けて衛兵なんかになる羽目になったんです!”って・・・・」 珍しいのだろうか・・あのマシューが微笑んでいる・・・ いや・・・どこか寂しげな・・・何かを懐かしむような、寂しがるようなそんな笑みを・・・ マシュー「よく仕えてくれたよなぁ・・・あの後色々あったな。結局私が国の中枢入り込むようになって・・・ それでも君は影から支えてくれた。周りにいう事はさすがに出来なかったがね・・・・」 「覚えているよ。あの女を連れてきたときの君の表情は・・・いや、今更だがな・・・ 申し訳ないと思っている。 所詮政(まつりごと)のためだけの女でもそんなの目の当たりにしちゃいい気はしないよなぁ・・・」 「でもさすがに君だ。すぐに悟ってくれたね。感謝しているよ。あの女か?さぁな・・・もう今となっては 何の用もないんでね。どんな女かも忘れたよ。もっとも書面では戦(いくさ)を避けて別宅に避難中 となっているが。 まぁ城の地下のダンジョンの土の中も避難中には変わるまい・・・・」 ふっ・・・そんな笑みがマシューに浮かぶ。 「どうしてだろうな。なぜか急に君の事を思い出してね。ある査問の最中に自分でも変だとは思うが思わず 仏心を出してしまった」 そしてきまりが悪そうに笑いながらつぶやくマシュー 「まぁ、君の逆鱗に触れたか、天罰なんだろうね。おかげでそのあと散々ビヤ樽共に付き合わされるハメに なってしまった。だが、それだけの価値はあったぞ」 グラスを両手で持って祈るように言うマシュー。 「もう少しだ。もう少しで敵が討てる。君の命を奪った憎きクソ虫共。あのエルフ共をこの世から駆逐できそうだ」 「だがもう少しだけまっちゃくれないか・・・君の敵は必ず討つ。たとえ私が滅ぶ事になってもね」 「もっともコレだけの事をしてるんだ、天国の君には会えそうにないが・・はは・・・私の行くのは地獄だろうからね」 「だが約束する・・・いや、約束を果たしてみせる。私自身に誓った約束だが、君の敵は必ず討とう。必ず・・・・」 帝国の夜は深けて行く・・・
長くなったので前後分けます。後編はまとまり次第投げに来ます。 「だから、何度も言わせんなよ、その気はないって言ってるだろ」 もう何度目だ、こうやって花街で袖を引かれるのは。それも一夜の誘いではない。こんな痩せっぽっちな子供が女を買うような金を持っているはずもない。店に並べというのだ。小奇麗に飾られた艶やかで淫らな女と同じぐらい高値のつく、色物の花にしようという心づもりで、こうして身寄りのない子供に声をかけているのだ。まだ無理やり攫ってしまわないだけ、随分良心的だと言えた。為政者は政治に関心を失い、この国はひどく傾いていた。そんな中、取締もろくに行き届かない花街で人道的な取引をもちかけてくるなど、店の歴史に自信があるか、懐に余裕がある商売上手といったところか。だがしかし、女を物のように売り買いする人間に対する少年の不信は大きかった。男を買おうという者の気もしれない。今日もこうして計算高い手を突っぱねて、目尻のきつい大きな蒼い目で女衒を睨む。その勝気で初心な表情は整った顔立ちを歳よりもやや幼く見せ、今から店に仕込んでも何年かは使い物になりそうだと思わせてしまうことを少年は知る由もない。だが美しい花は枯れるのも早いということを考えないほど、少年は愚かではなかった。ここでいくらか稼ぎが良くなっても、二十代も半ばの歳になれば売り物にならなくなる。そうすれば体を売るしか稼ぎ方を知らない者の末路など決まっている。惨めな凋落と破滅だ。そんな死に方をするなら、綺麗なまま野垂れ死んでやると、少年は不器用な高潔さを胸に、まだ引き止めようとする女衒を無理やり振り切る。揶揄の言葉と嘲笑を背に受けながらうつむき加減で唇を噛んで大股で裏通りを飛び出したところ、前を見ていなかったことも手伝って、脇道から出てきた男と派手にぶつかってしまった。たたらを踏んで、叩きつけそうになった悪態をすんでのところで飲み込んで見上げた人間はまだ歳若く、随分背の高い男であった。 「すみません」 下手に絡まれたくないという思いもあり早口に謝って脇をすり抜けようとすると、その青年が肩を軽く掴んで引き止めてくる。 「ねえ君さっき…」 「なんの用だよ…!」 また声をかけられる。一日で二度という事実は少年の事を荒立たせたくないという気持ちを吹き飛ばす。肩に置かれた手を乱暴に叩き落として振り返り、なにか罵ってやらなくては気が済まないと振り仰いだ青年の目を見て、少年は小さく息を飲んだ。 突然声を荒らげた子供に少し呆れ気味の驚きの表情を浮かべて面白がるように唇を緩ませたその青年の瞳の色は、否応なく血の色を連想させるほどの純粋な真紅。体の色素を持たない白子に赤い目が希に現れるというのは聞き知ってはいたが、本物の紅い瞳を目にするのは初めてであった。少年の凝視を感じ取ったのか、男は悪戯っぽく瞬くと長身をかがめた。 「この目が珍しいかい?」 軽薄で人懐っこそうな笑みが唇に張り付いていたが、細められた目に浮かぶのは妙に空々しい熱のない表情、あるいは空虚さ。その寒々しさに少年はたじろいだ。 「みんな大抵、初めはそういう反応をするね」 そう言ってどこか自虐的な調子でまるで人ごとのように言い捨てる投げやりさに気圧されたことが悔しく、少年は背筋を伸ばして男を真っ向から見上げた。そうしてみるとだらしなく気崩れてはいるものの身につけている物は仕立ての良さそうな上着や手触りの良さそうなシャツなど、明らかに貴族か、あるいはそれに準ずる裕福な上流市民出身であることを示していた。客引きでも女衒でもないなら、この町の客だ。肩にかかるほど伸ばされた明るく線の細い金髪と、目鼻立ち一つ一つは穏やかで柔和な作りだが少しばかり粗野な表情も相まって、まるで結婚詐欺師のようだなと少年は内心ひとりごちる。 「で、何の用だよ。俺は売りはやってない」 「買いに来たってのはわかるんだねぇ」 「あんたみたいなのがこの街ですることって言ったらそれぐらいだろ、お貴族さん」 「喧嘩っ早いかと思ったら、存外に人を見る目もあるようだね」 えらいえらい、と馴れ馴れしく頭を撫でる手を少年に忌々しげに叩き落されて、青年は苦笑いを零した。 「だけど不正解。君みたいに小さい子に手を出すほど外道じゃあないよ。さっきの勧誘みたいなの、よくされるのかい」 どうやら見られていたらしい。不躾な質問に少年はぶすくれる。どうせ細くて白くて男らしくないとでも思われているのだろう。 「時々。でも全部断ってる」 つっけんどんに答えにも、青年の熱を映さない態度は変わらない。 「君みたいなのは高値がつくから、売る気がないならこんなところ、出て行った方がいいだろうね。何処の店もああいう紳士的なやり方とは限らないから」 「今のこの国じゃどこに行ったってろくな仕事なんてないよ。特にこんな痩せたガキができることなんか何もない。こうやって人が沢山いるところのほうがまだマシだ」 言い募るうちに妙に腹立たしい気持ちになってくる。腹が空けば気が立つが、それ以上に成長期だというのに栄養が足りないせいか背が伸び悩んでいる自分と、目の前の男の惚れ惚れするほど恵まれた体格を比べて、いったいこの男と自分の境遇を分けたのはなんだったのかという実のない疑問に苛立ちが湧き起こる。 「悪いけど、あんたの同情じゃ腹は膨れないんだよ。あんたはこうやって名前も知らないガキに同情おしつけてりゃ満足かもしれないけどな、まだ金のほうがありがたいよ」 特に急ぐ用もないせいもあって、強く話を遮ってこの場を立ち去る理由が見つからなかったせいか、言うつもりのないことまで口をつく。せめて仕事があれば良かったが、それさえも心もとないというのに、この遊び呆けていることを許された身分の青年と同じようにここに立ち止まって時間を無為にしている。青年はそんな複雑な心境を知ってか知らずか、おもむろに上着のポケットに手を突っ込むと、一枚の硬貨を引っ張り出して、二人のそばに積まれた木箱の上に静かに置いた。その色に少年は思わず目を奪われる。 金貨だった。 少年がそれなりに安定した幸せな家庭で暮らしていた頃でさえ、そうそうお目にかかれるものでなはい、最も重い金貨だった。 「じゃあ名前を聞いても?」 金のことには触れず、青年はそう聞いた。道を尋ねるような気軽さだった。それに少年は無理矢理視線を金貨から引き剥がし、剣呑な目で睨めつけた。 「断る。教える義理がない。それにこんなもんいらない」 「そっか」 それだけ呟いたが、青年は金貨を引っ込めることはぜず、相変わらず冷めた目で飢えた野良犬のような少年を見下ろしていた。青年が何かを思いついたように口を開きかけたとき、表通りから女の声が掛かる。 「ねえ、ジィーベン、何をしてるの?」 その婀娜っぽいふしだらな声に少年は盛大に顔を顰めた。あからさまな表情に思わずといったふうに青年は苦笑して、女の声にすぐに戻ると返してから、身をかがめて少年に抑えた声で囁く。 「貴族街外れの3番地、若いのを探してる偏屈がいる。身売りは無しだけど、多分他のどんな仕事よりもずっと厳しい。だけど君みたいな子が、相応しいかもしれないね」 青年はそれだけ一方的に伝えると、ふたたび少年のくしゃくしゃの黒髪を乱雑に撫でるとぽんと軽く叩いて、払いのけられるよりも早く身を引くと、ひらりと手を振って待たせている女のもとへと去っていく。 残されたのは煤けて色あせた木箱の上に、不似合いな金貨。鋳造からそう年の経っていないであろう、縁も刻まれた皇帝の横顔もくっきりとした黄金。それ一枚で、少年は食いつなげる、誰のものでもなくなって、今はただ石ころのように転がる贅沢。あの青年にとってはおそらく人肌で、少年にとっては暖炉で、この寒々しい夜を凌ぐことのできる金色の気まぐれ。 だがそれを手に取るのは、少年にとっては敗北に思われた。何に負けるわけでもない、ただ道端の石を拾うような事でも、決定的な敗北であるように感じられた。それから目をそらし、立ち去ろうとするが、足がひどく重かった。歯を食いしばり、脳裏に焼き付いた空虚な紅い瞳の残像を追い払い、少し裏路地を進む。振り返ると、まだそこにある。いずれ誰かが見つけて、信じてもいない神に幸運を感謝して、なんの葛藤もなく持ち去るのだろうか。そう考えると、こうして未練を感じる自分を棚に上げて腹立たしさを覚えた。ふと少年の胸に、預かっておくだけだ、という考えがよぎる。それも所詮言い訳に過ぎなかったが、次に会った時に落し物だと言って返せばいい。いや、叩きつければいい。同情なんて糞くらえだと、そう言って笑ってやろう。 くだらない意地だと自嘲する自分を感じながらも、それは随分名案に思われて、少年は足早に取って返すと金貨を素早くつかみ、誰にも見られないようシャツのポケットに押し込んだ。 ずっしりと重い感触が胸に伝わったが、その場を立ち去る足取りは幾分勇み足であった。 貴族街外れの3番地。少年は金貨一枚よりもずっと価値のある者を青年によって与えられたことを、まだ知らなかった。 《前編完》
しん…とした闇夜。全てが黒で染まる。 今宵は新月…カーエデール卿が唯一、普段とは異なる姿になれる日。 小さき獣となってこの世界を飛び回る、それもまた一興ではあるがやはり、たまには人の姿に興じるのもよい。やはり博士は吾輩の心をよくわかっている。 寝床から起き上がり、被験者用ベッドにおいてある白衣を羽織る。と、足元に大きな塊がみえた。 「んん…」 もぞりと動くそれは、どうやら人のようだった。 ここに人間がくることは実に珍しい。いや、皆無だ。自力でこの場に入ることは不可能なのだ。 「さては…連れて来たのか」 ぽつりと呟きながら、顎をしゃくり、ハア、と溜息を洩らす。元は自分とはいえ、あの子はあまり深く物事を考えていないように思える。とはいえ、以前は小動物の死体を運んでくることもあったが、それに比べればまだ研究のしがいもありそうだ。 (せめて手術台で眠ってくれればいいのだが…) 明りをともすと、足元で青年が丸まって眠りについている。みたところ、今は健康状態も良さそうだ。だが、ここに連れて来たということは何らかの問題があるのだろう。 持っているろうそくの明かりを顔のあたりにやると、ズキリと頭が痛んだ。 「この子は…」 吾輩が小さき獣の姿で外にいると、詳細には伝わらないが吾輩にとって重要になることだけは中にいる人格にも伝わる。彼の顔は何度も伝達されてきた。 ―――ヴラド。 それだけしか知らない。だが、それで十分だった。 獣が連れてきた唯一の生きた人間。よほど大切に想っているのだろう。 静かに寝息を立てる彼のマントをゆっくりとめくる。どうやら、片腕が無くなっているようだ。どのように止血したのか初見では解りかねるが最近のモノでもないらしい。 他にも切り傷は頬や肌の出ている箇所に数点見受けられるが、それほど問題もなさそうだった。 「腕か…」 布できつく縛られた箇所をナイフで切る。その瞬間、バッと翻され、開いている片方の手で掴みかかられた。そのまま床に押し付け、乗りかかる。一瞬の出来事だった。 「…誰だ、てめぇ…」 力強く握られ、ナイフを落としてしまう。カランと響く音を聞きながら、さらに床に背中を押しつけられる。 「少し力をゆるめてもらえないか。吾輩はただ、触診をしていただけだ」 「ショクシン…?てめぇ、あのハエの仲間か?」 鋭い眼光で睨みつけ、いまにも喰いかかってきそうな勢いに吾輩は少しだけ眉間に皺を寄せた。 「蠅とはまた…。わざわざ君を連れてきたあの子も悲しむのではないかね?」 「別に、大した問題でもねえよ。…ナイフなんざ出して、何のつもりだ」 「腕。布を取ろうとしたが、硬すぎてね」 少しばかり力が緩み、のしかかる重みが軽くなった。 「ああ。…治せんのか?」 覗きこむようにこちらを見る目は、先ほどの勢いはなくなっていた。獣は多分、この目に惹かれたのだろう。片方の目はウェーブがかった前髪で伺うことは出来なかった。 「さて、さすがにそのままではわからない。…済まないが一旦降りてくれないか?君がこのままのほうが良ければ無理はいわない」 「!…わぁったよ。」 飛び起きるように吾輩の上から起き上がり、「こちらへ」と促すと意外にも素直に手術台へ座った。 右腕に乱暴にまかれた布をナイフで切り、ゆっくりと解く。最近ではないとはいえ、まだ痛みは強くあるようで傷口に布が触れると顔をゆがませるのが見えた。 「まだ、痛むのだね…仕方あるまい。どうやらこれは…あの子が一時的に切り口を?」 「…おう、印でなんとかしてるっつー話は聞いた。で、…なんとかなんのか?」 痛みに耐えながら発する声は、あまりにも辛そうで。早く処置をせねばと思いながらも切り口がまだ断面の見える状態に心臓が脈打った。 (これは…いい実験台になりそうだ…博士に見せてあげたい) 吾輩の心の奥で浮かぶ言葉を抑え、傷口に触れる。 「あぐっ…ッツ…!!!!!」 「少し痛むかもしれないが…、一度縫合の為に印を切る」 その言葉にびくりとしたヴラドは一瞬制止しようとしたが、思いとどまったようだった。 「わかった」 「いい子だ。腕はまだこの場にはない。だが、このまま放置するわけにもいかないだろう。吾輩としては…今のうちに全て済ましてしまいたいところだが…、一時的に縫合しておこうと思う。印だけではどうしても腐食まではおさえられないからな」 苦痛にゆがみながら、頷く彼の表情に脳内が沸きあがるように興奮していた。 (いけないよ、カーエデール卿。彼の回復を祈っているのだろう。今はまだその時ではない) 言い聞かせるように頭の中で呟く。冷静を取り戻し、目の前の“患者”に目を落とした。 『新月の間に出来ることは限られる。処置は完了したが彼の腕を取り戻すのは、まだ不可能だ。』 吾輩は、それだけ紙片に書き残し、傍らで眠るヴラドの顔を見つめた。 このまま普通の義手をはめるにはもったいない。なるほど、あの子が目を付けたのもよくわかる。 目を細め、満足げに科学班に連絡事項をしたため、カーエデール卿はゆっくりと彼の額を撫でた。 「また次の新月で会おう。その日まで…」 ボソリと呟き、ヴラドの額に唇を落とした。
【名前】なし(巷では「グリモワール」「風來の辞書」「流れの叡智」など呼ばれている) 【性別】男 【年齢】26 【種族】獣人(犬系雑種) 【出身】農家の次男坊→帝国科学者→風来坊 【所属・役職】旅人(中立だが帝国に与する気はない) 【性格等設定】 隻眼の犬耳系獣人。小柄で色白。たいていニコニコと笑っているが、切れると表情が一変する。よく学徒に間違えられるが、立派に成人している。魔本に触れた影響で外見年齢の変化がとても小さくなっているだけである。 流れに任せて生きている風来坊でモットーは「なるようになる」。温厚でお人よしで困っている人を見ると首を突っ込まずには居られない。 一定の界隈では有名人であり、世界の秘密についても知っているのでは?と噂されている。所持している魔本には今までの持ち主の知識が詰まっており、そこにさらに自分の知識を加えるべく渡り歩いている。金銭含む様々な管理が超弩級にヘタクソでよく行き倒れている。 【来歴】 田舎の小さな農村生まれだが、桁外れて記憶力が高かったため物覚えがよく、神童として取り立てられた。他の人間たちからは奇異の目を向けられたが、それでもよく働いていた 帝国在籍中、ある古代遺跡から発掘された「魔本」に触れ、その持ち主となる。魔本の知識を得ることでさらに常人離れした知識量を得るが、魔本に「現実」を突きつけられ愕然とする。 自らの仕事に苦悩していた時に、解放軍の大規模テロが発生。意を決した彼は魔本を抱えて帝国から逃げ出した。 そのため、彼の知識量と、魔本という存在を捉えるべく動いている帝国の目から逃れながら各地を渡り、せめてもの罪滅ぼしと自分が奴隷に科した枷を外して回っている。 片目については旅の途中の戦闘で負傷し、使い物にならなくなったものを魔本へ捧げた。 【魔本】 代々持っていた人達の知識が蓄えられた、生きている本。しゃべることはないが持ち主の潜在意識に語りかけて知恵を要求する。また、持ち主は死後魔本へ取り込まれることが研究で明らかになっている。 現在は目を持っているためある程度は自分で知識を得ているらしい。 【戦闘】 可能な限り戦闘は避けようとし、逃げるか話し合いで解決しようとするタイプ。どうしてもやむを得ない場合は無力化が基本。相手が帝国の場合はお構いなしに魔本へ刻まれたあらゆる魔法を詠唱して斬滅しようとする。好きな魔法は火属性(ファイアボール、フレイムブラスト、バーンアウト、メテオブレイズといったもの)と、魔本からの召喚呪文(剣や杖など)。 【恋愛傾向】 たとえこの世が滅びようと恋心には気づかないという超弩級鈍感。そのくせ相手をもてあそぶのは好き