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(特務隊の戦闘スタイルとかお仕事とかの雰囲気小説です。例の後編はまた今度…) 「馬鹿なことを…」 ジルキオは嘆息する。槍を向け自分を取り囲む私兵達と勝ち誇った表情で兵をけしかける男を、片目を眇めて眺める。敵意なきことを示すために剣を預けたため全くの丸腰で、これ以上ないほどの危機的状況だというのにまるで他人事のような態度ですらあった。 「犬を始末して、その先はどうするおつもりです?仮に私を殺せてもて、露見するのに一日とかからないでしょう。その先のことはお考えになっていますか、パーヴァス卿…」 言葉に嘘は一つもない。既にパーヴァス卿は翻意ありと中央から目をつけられているのだ。革命に不満を持つ前体制派の一派である彼のきな臭い動向を危険視して内密に逮捕命令が下されたが、反乱を実行に移す前ということもあり表向きは調査同行依頼のためと称して接触した。しかし話し合いもそこそこにこの有様である。政敵の重要人物ながらこの軽はずみな行動には呆れて憐憫の念すら湧く。馬脚を現すにしても考え無しにも程があった。 「命乞いと交渉はもっとうまくやるべきだったな黒犬…!残飯漁りが似合いの貧民が身の丈に合わぬことをするからだ」 優位を確信してるがゆえの同情めいた傲慢さが言葉の端々に臭う。先帝の庇護に甘んじてプライドだけ肥え太らせた男の肥大しきった慢心に、ジルキオの涼しい面差しに不快の色が過ぎる。 「命乞い…それをするべきは貴方でしょうに」 先代の特務隊隊長が死亡し跡を継いだばかりの、齢もまだ30に遠いジルキオは先代の威を借る若輩者と軽視される向きが強く、こうして舐められることもままあった。組織の頭が変わっても、公爵の猟犬たる特務隊の鼻も牙も鈍らないということを知らない者はあまりに多い。 「これは警告です卿よ。与えられた機会は有効にお使いなさい。もう一度だけ、お願い申し上げます。我々特務隊に『ご協力』を。貴方にしか語れぬことがございますので」 無数の切っ先を向けられてなお全く動じず、辛抱強い静かな口ぶりで説得を繰り返す。戦わずに済むならそれに越したことはない。だがそんな姿勢を虚勢ととったか弱腰と見たか、パーヴァス・ハクスリー爵は嬲り殺しを夢想するかの如き表情で、蛇が舌を鳴らすような嘲笑を歯列から漏らしてはっきりと首を振った。 「貴様らに語る言葉など持ち合わせてはおらんわ、盗人公爵の犬め!」 「…そうですか、残念です」 その一言が結ばれるよりも早く、ほとんど無防備にすら見えたジルキオの手が目にも止まらぬ速さで突きつけられた槍の柄を捕らえて兵の一人を引き倒し、倒れ込んできたその兵の腹に石突きを叩き込む。返す手でもう一人の腕を掴んで捻り上げて足を払い、瞬く間に膝をつかせると腰に下げられた片手剣を奪って手早く喉をなで斬りにした。 二人が地に伏せるまでの間になんとか動揺から立ち返って次の一手を警戒する他の兵たちから距離を取り、油断のない目で間合いを計る。包囲したまま攻めあぐねている兵が六名、さらに広間に詰めているものもめいめい得物を取りじりじりと距離を詰めてくる。今は二十人ばかりだがすぐに増援が駆けつけるだろう。 突然の反攻に泡を食ってパーヴァスが広間の勝手口側からまろぶように逃げ出していくのと同時に、控えさせていた部下二人が交渉決裂を察知して正面扉から突入してくる。 「ボス、無事ですか!?」 「手間取りすぎだエヴァレット、剣を!クローディア!パーヴァス卿を捕えろ、生かしてだ!」 「了解です」 簡潔に一声返事を残して、栗色の髪をひとつに結った細身の女がパーヴァスを追ってゆく。鳥のように身軽で猫のように音もなく駆け抜ける彼女は、その魔術の才でジルキオの命令と期待を裏切ったことはなかった。今度も間違いなくそうなるだろう。 同時に部屋に飛び込んできたもう一人の青年が右手に血に濡れた剣を引っさげ、左手にひと振りの優雅な長剣を抱えて駆け寄ってくる。彼は新手の登場に矛先を変えた兵たち数人を無造作に薙ぎ払いながら人使いの荒い隊長に抗議した。 「これでも急いだんですよー、全力で!」 ジルキオはどことなく間延びした部下の青年の言葉を無視して、粗悪な片手剣を投げ捨てると自身の手に馴染んだ鋭いレイピアを受け取る。 「下はどうなっている」 「とりあえず押さえました、軍から借りた連中と一緒に封鎖にあたっています」 「申し分ない、あとは彼らの相手をするだけだ」 広間には特務隊隊長の実力を目の当たりしても戦意を失わない兵が踏みとどまり、それどころか騒ぎを聞きつけて駆けつけてくる者でその数は増えてゆく。 形勢は相変わらず人数で劣る特務隊が不利に思われたが、ジルキオは切っ先を下げるようにレイピアを構え、兵たちの次の動きを余裕の佇まいで待った。エヴァレットは使い込まれた剣をやや高く構え、隊長の一手と敵の顔色を伺っていた。その表情には場違いな愉快そうな色が微かに滲む。焦れるような睨み合いの拮抗はすぐに崩れた。 一人の兵が間合いの優位を確信して果敢に繰り出した槍をジルキオは半身を捻って躱し、左手の甲で柄を押しのけて相手の懐に躍り込む。その大きな一歩の踏み込みで一瞬のうちに不利な間合いを踏み越え、勢いのままにレイピアを相手の胸へと突き入れた。よく手入れされた刃は容易く肉を貫き、鈍い感触を腕へと伝える。びくんと痙攣して崩れ落ちた肉体を蹴り飛ばして剣を引き抜き、さらに手近なもう一人も片付けた。 全体の連携が取れておらず、重大な局面で冷静さを失っている兵たちの動きを見て、実戦経験なしと判断する。近年大きな戦もなく、革命派の一方的な粛清と貴族私有の騎士団解体が断行され、兵力の国軍一極集中体制へと再編成されたことで、中央の新体制派と地方へ飛ばされた旧体制派との間の力関係は急速に天秤を傾けつつあった。その影響が如実に現れた嘆かわしいほどの練度。もう何人か始末して脅せば戦意を挫けるだろうと読む。 無謀にも突っかかってくる者の斬撃は真っ向から受け止めず、細身の刀身で羽で触れるように軽く受け流す。相手の隙を誘い、無駄な手数は一切挟まず、確実に急所を貫き、それでもまだ立ち上がろうと足掻く者の背を念入りに軍靴で踏みにじる。できるだけ残虐に見せ、揺さ振りをかけて動揺を生み、一気に心を折る。このような無慈悲な行いを容易くやってのけるためにしばしば死の前兆と忌み嫌われる黒犬になぞらえられる冷酷な男は、しかし、ほとんど美しいといっても良いほどの剣筋を誇っていた。 今また左足を引いて上体を逸らし攻撃を避ける、その危ういバランスを保つために上がる左手の指先から、狂い無くレイピアを振るう右手、次の一歩へ淀みなく繋がる足さばきに至るまで、まるで一曲の音楽のように心地よい緊張感に満ち自然な連なりを描く。修練と実戦の中で何度も繰り返し磨き上げた楽章に相手を引き込み、自分の独壇場で流れるように殺戮する。たった二人に対して束になってかかっても傷一つ負わせられないどころか仲間が次々と倒れていく事実に、さすがに数で勝る兵たちにも動揺の色が見え始める。 「隊長、そろそろじゃないですかね」 「ああ、頃合か」 ざっくばらんだが柔軟で機敏な剣筋で補佐していたエヴァレットも形勢が傾いたのを感じたのかジルキオに声をかける。適切な読みに頷き返してやりながら一旦切っ先を下ろしてぴんと背筋を伸ばすと、きっぱりとした蒼い目で生き残っている兵たちを眺め渡した。 「これが最後通告です、投降しなさい。今ここで武器を捨て我々に帰順したものの命は保証しましょう」 「死にたくないでしょ、うちの隊長、殺るときは殺るよ」 エヴァレットも剣を担いで相槌を打つ。 何かを成すのに、誰よりも早く行動するのは難しいことだが、誰かが言い出さねばならない。しかし誰も剣を捨てようとはしない。兵同士はお互いの顔色を伺い、互いの圧力に動けずにいた。 とその時、ほかよりも立派な制服の男が一団から躍り出ると、剣を腹の辺りで構え、死に物狂いで突進してきた。 「公爵の犬に売る魂などありはしないぞ!!」 凶暴な感情に男の表情は歪み、ぎらぎらとした目と無感情な蒼い瞳の視線が交錯する。だが勝負は一瞬だった。ジルキオは猪突猛進な一撃をあくまで冷静に、闘牛士のようにひらりと躱して手首を返し柄頭で顎を強打した。頭を突き抜けた強烈な衝撃に膝から崩れ落ちた男の肩に間髪入れずにレイピアを突きたて、叩きつけるように床に押し倒す。呆然と大の字に転がり口から血を流す男の投げ出された腕を踏みつけ傲然と立ちふさがると、ジルキオは燃えるような氷の目で男の愕然とした顔を見下ろした。 「…貴方が兵隊長殿ですね?貴方の可愛い部下たちにひとこと、命を大事にするよう伝えて頂けませんか?」 肩から豊かな黒髪が流れ落ち、ジルキオの冷たい表情をぞっとするような色に翳らせる。慇懃な言葉を紡ぐ薄く控えめな口元だけ妙に女じみた形をしていたが、それは優しさを連想させることはなく、むしろ底冷えした端正な面差しを一層恐ろしげに見せていた。 床に伸びた兵隊長は悔しげに唇を噛んでジルキオを睨みつけたが、肩に突き立てられた剣をぐいと押し込まれてうめき声をあげ、憎々しげな表情を隠そうともせず、砕かれた顎を難儀して動かしてやっとのことで投降を命じた。 「みな、武器を捨てて、犬野郎にしたがえ」 兵たちは顔を見合わせたが、苦々しい顔で次々に武器を足元に投げ捨て、その場に膝をついて投降の意思を示した。 それを見届けるとジルキオは兵隊長の肩から無造作に剣を引き抜いて足をのける。思わず見とれてしまうような優しげな作り笑いが彼の鋭い目尻に張り付いた。 「勇敢なご判断とご協力に感謝致しますよ、兵隊長殿」 完全な敗北を悟って抵抗を一切やめた兵隊長と投降した兵たちをエヴァレットに任せ、ジルキオはパーヴァス卿追跡に放ったクローディアを追いかける。広間を出て廊下を抜け、足早に階下へと向かうと、クローディアが階段を下りきったすぐ近くで凛とした背を見せて佇んでいた。その足元に目をやれば芋虫のように転がされたパーヴァス卿の姿もあった。単純だが有用な捕縛魔術で拘束されていることをひと目で見てとって、大股で近づく。 「クローディア、ご苦労。随分静かだが、塞いだのか?」 「ええ、女性の前で口を開かせるには少々躾がなっていませんでしたので」 ジルキオにも劣らぬ冷淡な声に煩わしげな忌々しさを漂わせて彼女は柳眉を顰めた。捕縛して拘束する間、口汚い女性蔑視論にでも付き合わされたのだろう。気の毒なことだ、と転がされたパーヴァス卿に視線をやる。クローディアは気に食わない相手に優しくするほど淑やかな性質ではなかった。 「まったく、困りますね、パーヴァス卿、貴方のご立派なご両親の品位まで疑われるような振る舞いは」 クローディアに合図して沈黙の魔術を解かせると、パーヴァス卿は顔を真っ赤にして押し込められていた罵倒を撒き散らした。 「その父を殺したのは貴様だろう犬め!あの成り上がりのエセ公爵の靴を舐めて尻尾を振ったんだろう!いいや、振ったのは尻尾だけじゃなさそうだなメス犬が!その上女に権力を与えるなど惰弱で恥知らずな!何処の馬の骨ともしれない貴様のような乞食がのさばるようでは帝国は御終いだ!」 四肢を折り曲げて縛り上げられた体をよじって一息にまくし立てるパーヴァス卿を、ジルキオは顔色一つ変えずに見下ろす。そばで小さく「下衆が」と吐き捨てて戒めの魔術をきつく締め上げるクローディアを手で制して片膝をつき、拘束の痛みに呻き声をあげながらもまだ何か飛び切りの侮蔑を必死に考えているのであろうパーヴァス卿の憤怒の形相を覗き込んだ。 「そうですね、貴方の知っている帝国はもう御終いです。ここから先は、私たちの帝国となる。貴方の言葉など、もう我々に届きはしないのですよ、パーヴァス卿」 革命勃発より5年。先帝の遠戚に連なる、前時代の有力貴族の復権の要とも言える男がついに執政派の猟犬に追い詰められた瞬間であった。
(闘技場に放り込まれたヴラドは死線を潜り抜け大人たちをだまし討ち殺しながらなんとか生き抜いてゆきます。そして戦い始めてから六日目、彼にあてがわれた相手は…というストーリーです。) ―「かてっこないぞ、こんなの」 遠のく意識を確かめるように、ヴラドはつぶやいた。肩からひじまでをざっくりと切り裂かれ、だらりと垂れさがった左腕を血がつたい始める。もうじきじりじりと焼けるように痛みだすだろう。それからまるで心臓がそっちにうごいていったみたいにどくどくと傷口に脈をうちはじめる。 さっきからもうみたびも弾き飛ばされている、ぐらぐらとそれでも力をふりしぼって壁をつたって立ち上がる。何かふんだと思ったら、土踏まずに自分の歯が浅くささっていた。 「いてて…」 普通のこどもではありえないことだが、ヴラドはここ何日間かのうちに恐怖も痛みも人を殺める感触も押し殺すすべを身につけ、早くも慣れすら感じ始めていた。しかし今回の相手はいままでのごろつきや「ヤクヅケ」などとは相手が違いすぎた。だまし討ちや身軽さなど通じる相手じゃない。 初めてみる獅子の獣人。自分の腕が五本集まっても足りないくらい太い腕をもち、研ぎ澄まされぎらぎらと光るツメとキバ。黒くて大きな鼻はぬらぬらとしめっている。幼いヴラドの顔くらいすっぽりとおさまってしまうような大きな口。自分のもつ錆びたナイフなど彼の毛一本ほども切れないだろう。こんな奴に正面からにらまれたら大人でもびくついて逃げ出してしまうにちがいない。雄叫びを浴びるだけでなにかに突き飛ばされたみたいだ。 でもひとつ気になっていることがある。試合が始まった時からすでに彼は何かに苦しみ悶えているのだ。今はよだれをまき散らしながら、白目をむいておそろしい唸り声をあげ、片手で首元をおさえている。 今思えばかれは初めから自分のことなど気にかけちゃいないようだった。毛むくじゃらで丸太のようなその首からは時々ちらりと黒く光るものがみえた。 こんなに強くてりっぱなやつでも奴隷になるんだな。ヴラドはぼんやりとそんなことを考えていた。何か弱点はないか。すると突然ぐにゃりと視界が歪み、突然地面が目の前に迫ってきた。自分が倒れたのに気付くのに少し時間がかかった。血を流し過ぎたのだ。 視界がぼやける。 すると突然、金色の長い髪の…女のひとだろうか。とにかく人らしき影が目の前にするりと現れた。こちらに背を向けて、じっと獅子の獣人の方を向いている。ごろつきが言ってたいた「おむかえ」ってやつかな。その割には腰にとても細くて短い刀を二本も差してある。そしてその人影はつと倒れこむように駆け出したかと思うとふわりと浮いて獣人の肩に器用に着地した。 金色の髪だけがうねうねとゆらめき、それはまるで空中を舞う蛇のように見えた。金色の蛇は獣人の首に巻き付いて、真っ赤な花が咲かせる。そこでヴラドの視界は途切れた。
12歳のヴラドが闘技場で獅子の獣人に殺されかけているのを救った少年。(別項参照)気まぐれで雇い主の富豪に頼んで盛り上げ名目で自らの乱入を許可させ、さらには自軍に引き入れた。 長く腰まで伸ばした美しい金髪と青い瞳、浅黒い肌が特徴的。剣士としての実力も抜きん出ており、腰に差した二本の短刀で曲芸のように攻撃をいなしながら素早く相手に組みつき首を裂く。見目の美しさをおぞましく際立てるその残忍な戦いぶりに闘技場の人気は確固たるものだった。 奴隷には少ない常に明るく飄々とした性格で、常に彼のまわりには他の奴隷が集まってくるが、一切それを拒むそぶりを見せることはなかった。しかしひとたび試合になれば相手には一切の容赦がなく、眉一つ動かす事なく首をはね剣を突き立てる。その実力と人望の厚さには雇い主も一目置いており、スターとして実子並の待遇を受けてもいた。 ヴラドのことを自分の弟の様に可愛がり、彼に生き残る術を教え、ヴラドにとって友以上に師であり兄のような存在でもあった。ヴラドが才能を開花させ肩を並べるまでになると、2人は闘技場の花形として名を上げ、数年の間彼らは闘士としての名誉を欲しいままにしたという。 しかしその幸せも突然に終わる。 ヴラドが17になったころに彼の存在に飽きて疎ましく思った雇い主が、彼を慕っていた取り巻きの闘士を全員殺害し、彼自身にも毒を射たのである。重い病に伏し、死に向かう直前にヴラドと兄弟としての血の契りを交わして、彼はその20年の短い生涯を閉じた。毒に犯され痩せ細ったその亡骸はまるで枯れ草の様だったという。 (設定としてはジェイド船長が彼の生き写しというもので、ヴラドがジェイド船長にこだわる理由の一つです。ヴラド君、思春期においては割とまともな青春送ってます。その辺もおいおい創作できたらなと思います…)
-------------------------------------------------------------- 時間を戻そう。 若きマシューの辛酸な過去とは別れて。 遠い日に失った大事なものと・・・・ -------------------------------------------------------------- 闇が嗤う。 マシュー「ふん・・・大方他の連中の悪巧みだろう。精々ノーデンスといった所か」 そうつぶやきながらも書類仕事を止める手は休めない。 マシュー「真面目に聞け?は。貴様が真面目だったことがあるのか?私も貴様の 一部なのだぞ?筒抜けだ」 苦笑するようなそんな気配を漂わす闇 マシュー「ふん・・こっちも仕事に追われる身でな。このままでよかろう。 だいたい同じ者なのだ。つぶやきさえしなくても考えはわかるだろうが」 顔を少しだけ後ろに振り返り、言うマシュー。 マシュー「なに?手を止めろと?つぶやくのをやめてこちらを見ろと?ならば仰天するような 事象でも現出させてみせろ。小鳥に吊り下げられた鯨とかな」 困ったような・・そんな雰囲気を漂わせる闇 マシュー「ああ、あの男なら自ら出向く。忘れはせんよ。シ・ゲルが相手であればな。 せっかく封印して永久の苦痛を味あわせてやろうと思ったものを。 余計なことをしおって。ノーデンスめが」 闇の表情?表情があれば。だが。明るくなったようにも思える。 マシュー「大体、封印の効果はあるのだ。私もお前もそんなに力はない。かって シ・ゲルに復讐したときのような力はな。 盛大に使ったからな・・・おかげでその後は殆ど以前の人の身と代わらん。 かといって封印を退ける程度の余力はあるがな。 だからこそ私に話を振ってきたのだろう?」 うなづくような気配が広がる マシュー「であったとしても。だ。念話で済ませるのはどうかな?手を抜きすぎだぞ? 少しは口を開いたらどうだ?」 突然。 声が広がる。 妖艶な・・・女の声だ。 少女ではない・・・どこか妖艶で・・どこか闇の香りを漂わせた・・・・・ 女の声「つれないねぇ・・・・ボクと君の中じゃないか。相思相愛。思いは通じてるってね」 そうだ。かって死の淵でマシューが聞いた声。 あれからどれだけの月日が流れたか・・・ にもかかわらず何の変わりもない、妖艶で、どこか人を嘲笑う女の声だ。 マシュー「ふん。互いに邪神の片割れで何が相思相愛だ。横着しているだけだろう?」 女の声「で、向かってくれるんだよね?」 マシュー「ああ。明日にも向かおう。なぁにあの程度の男なら私一人で十分だ」 大仰に・・・芝居がかった調子で続ける女の声。 女の声「それはそれは。戦果を期待しているよ。うふふふふ・・・」 マシュー「どうせ、そこにも悪巧みをしてるんだろう?私を巻き込むなよ。邪神の片割れ どうしで同士討ちなんてごめんだ」 女の声「あははは。せいぜい気をつけるよ。まぁ君も気をつけるんだね」 ふん・・・クソ面白くもない。そうも言いたげにマシューは言葉を返した。 マシュー「どの口からそんな言葉がでるのか。まぁ、千の無貌じゃ口があるのかないのかも わからないか」 女の声「こういうのを座布団一枚っていうのかな?面白い冗談だよ」 マシュー「ふ・・・お前にこういうのもどうかと思うがな。同じ片割れとして。だが片割れまで 罠にはめるなよ。千の無謀。這い寄る混沌。いや・・・」 急に空間に赤い火がともる。 まるで目のように・・・ だが、その中央にも立ち上るような赤い光。 声のしていた場所の方に。 マシュー「燃える三眼。ナイアルラトホテップ」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーFIN--------------
むかしむかし あるところに いっぴきの 小さなけものが いました。 ネコくらいの大きさで空の色がすけるトンボのうすい羽と、頭には2本のつの、体は真っ赤で、空をとぶとてもふしぎな生き物でした。 そのけものは自分のことを「カーエデール卿」と呼んでいました。卿は言葉をしゃべり 世界中をとびまわって、いろいろな人たちと話をしました。 この世界には、人間、エルフ、鳥人、獣人、ドラゴン、吸血鬼、かいぞうされた生物…いろいろな生き物がいました。卿はいつも不思議に思うことがありました。 「どうして皆いっしょに生きてるのに、仲良くしないんだろう?」 ふしぎなけものである卿にとってはそれが自分以上にふしぎでなりませんでした。 ラース帝国にいくと、きっちりした制服に身をつつむ人間たちがいました。きれいな衣装に卿はうっとりしました。帝国をふよふよと飛んでいると、お城の高いところにある窓際に、ひとりさみしそうな人間がいました。 「こんにちは」 卿が声をかけると、驚いた様子で目を真ん丸に開きました。そしてゆっくりとその人間は卿の姿を頭のてっぺんからしっぽの先まで見つめ、 「…あ、あなたは?」 と話しました。少年の姿をしていましたが、声は少しばかり高く、卿もふしぎそうにその人間を見つめました。 「吾輩はカーエデール卿。貴殿は?」 「…この帝国の皇帝だ」 目線をはずし、そうつぶやいた彼は皇帝というにはあまりにも幼いように思えました。そして、あまり幸せそうに見えませんでした。 「皇帝?ならなぜそんなに寂しそうな顔をしているの?…この国は吾輩が見た中でも一番栄えてるというのに」 卿の言葉に彼はフフッと笑い、また目に憂いを浮かべた様子で卿に向かいました。 「…さあ、どうしてだろうね。卿に…話しても何も変わりはしないだろう」 カーエデール卿はむかむかしましたが、それよりも彼の寂しい顔が心配になりました。この素敵な帝国でも一番偉い人がこんなに寂しそうにする理由、なにかあるのだろうか。 卿は心の中にもやもやがあふれていきました。同じ人間が暮らすこの帝国の中でも、皆が仲良く暮らしているわけではない。そう見えたのです。 (同じ姿でいるのに、この人間の心はひとりなのかな。) 卿は皇帝の寂しさを少しだけ感じて、頭を下げ、そっと窓際から飛び立ちました。 姿かたちだけの問題じゃないんだと思いながら、もっとふしぎな姿の卿は心のどこかで吾輩の本当の居場所はどこだろうと、またもやもやと考え込んでしまいます。 夜になり、月明かりが世界中を照らし始めます。キラキラと静かに海面に照り返す月光が、カーエデール卿は好きでした。ぼんやりと海辺でその様子を見ていると、ズズズ…と大きな影が卿に覆いかぶさってきました。なんだろうと横を向くと、すぐ隣にそれは大きな船が岸に上陸していたのです。その船は立派ではありましたが、よく見ると船底はいたんで、すこしおんぼろな船でした。 卿はふわっと飛び上がり、船上にだれかいないか様子を見に行きました。すると、大の字に倒れている男が二人。甲板にいるのが見えました。 あわてて卿は近寄って声をかけます。 「だいじょうぶ?ねえ、…だいじょうぶ??」 卿の声を聞いて、小さく唸る青年。月光に照らされた髪は金色の少しのびた短髪で、肌は褐色に焼けている…身なりから若い船長のようでした。もう一人は首輪をして、髪の毛が半分だけ白くて半分は黒い変わった髪型の青年のようです。卿はどうしたらいいかあわてていると、枯れた声が聞こえました。 「み、…みず…」 「ミミズ?」 その言葉に脱力しながらも、のどの渇きを訴える彼の姿にやっと気づいた卿は、近くにあった農家から水を拝借して彼の前にビンを差し出します。船長はビンをとり、一口毒見をしてすぐに隣で倒れているもう一人の青年の口に、ビンをあてました。 「ほら、水、もってきてくれたぞ」 一口、一口とゆっくりと水が流れ、のどが動くのが見えて卿も船長もホッとして顔を見合わせました。そして少なくなったビンの残りを船長が飲み、水面に光る月光のようにキラキラと目を輝かせ、すぐにニッコリと笑いました。 「ありがとう、赤いの!なかなか島に到着できなくってな…やっぱ海は甘くねえや」 「よかったね。…あの、あの人はだいじょうぶ?」 赤いのと呼ばれ、卿はきょとんとしたが、彼はあまり卿を見て驚く様子はないようでした。あたたかな笑顔に心がほっこりとしました。 「大丈夫だ、問題ない。あいつはそんなヤワな男じゃないぜ。…まあ水がなくなったときはさすがに焦ったんだけどな」 「海に水があるのに?」 卿がそういうと、船長はハハハと笑い出します。 「あんなの飲んだらのどが焼ける!ま、ちょっと準備不足だったみたいだ」 準備不足という言葉に卿は疑問に思いました。普通の漁師さんならきっと航海の想定はしているんじゃないのか、それに水が尽きるほど長く船を出すことは少ないんじゃないだろうか。卿はそう思ったのです。 「船長さん…は、漁師さんじゃないの?」 「?ああ、わかるか。…俺たちは、そうだな…―――」 「おい、…そんなよくわかんねーいきもんに言う必要ねえだろ」 後ろから突然声がして、卿はびくりとしました。さっき倒れていた青年が起き上がってきたのでした。 「お、ヴラド。もう大丈夫か」 「ったく…んだよ、だからあのルートやめとけっつったんじゃねーか」 少し怖そうな人間でしたが、船長が嬉しそうに話しているのでそこまで悪い人間でもないのだろうと卿は思いました。 「あーそうだっけ。まあこうして助かったんだし!そうそう、この赤いのが俺たちに水、持ってきてくれたんだぞ。よくわかんねーいきもんとは失礼じゃないか」 「アンタもその羽虫、赤いのっつってんだろ。それは失礼とはいわねーの?」 「はむし…」 卿は(やっぱりこの人怖い)と思いました。 「ごめん、恩人さん。ほんとに助かったよ。俺はジェイド。君は?」 すっと手を出して握手を求めているようでした。船長の手に卿はちいさな手を伸ばし、握手をすると、にっこりと笑っていいました。 「吾輩はカーエデール卿だよ」
-------------------------------------------------------------- シ・ゲルの顔に焦りが浮かぶ。 シ・ゲル「なんだと・・・もう3階層目を抜けただと・・・?一体何者なんだ!? この迷宮はそう簡単に抜けられぬはずだ!」 水晶球を見ながら言うシ・ゲル。 レーダーのようなものなのだろうか? そんなシ・ゲルに背後から声をかける者があった。 「ふ・・・下らん。あの程度の雑魚でこの私を止められると思ったか?」 思わずその声に振り返り・・・その顔をみて仰天するシ・ゲル。 シ・ゲル「なにや・・・な・・・き、貴様・・・生きて・・・!?」 冷たい眼のまま、表情さえ変えずに言い放つマシュー。 マシュー「私が生きていては都合の悪いことでもあったのか?申し訳ないが、君には 返さなければならない借りがある。おちおちあの世で寝ているわけにもいかん」 当然だ。己が手で屠ったと思う相手が目の前にたっているのだ。焦りか・・恐怖か・・ 思わず呪文を唱えるシ・ゲル。 シ・ゲル「ふ・・・ふん・・そ、それがどうしたというのだ!劣等種族めが!」 そういうと呪文を解き放つシ・ゲル。 呪文の閃光が収まったその先には・・・ マシュー「やれやれ。この程度か。この程度であれば結界を張るまでもない。 児戯ではなく少しは真面目にやってはどうだ?」 むしろ呪文ではなく呪文で巻き上り、服についた埃を払うようにするマシュー。 シ・ゲル「馬鹿な・・・外呪ではないとはいえ・・高位の破壊呪文を・・・・き、貴様! どうやって呪文を防いだ!?それになぜここにいる?貴様は死んだのでは なかったのか!?」 さすがに魔法を防御されては慌てざるをえない。 魔法においては他の種族を大きく引き離すのがエルフなのだから。 嘲るように笑いながら言うマシュー。 マシュー「ふ・・君の言葉を返そうか。質問は一つずつにしてはどうか?高慢な エルフはそういう風には学んでこないか?まったく、高慢なだけの無能種族共と きたら・・・・」 シ・ゲル「く、くそ・・・っ!ならばこの呪文なら・・・・」 呪文を唱え始めるシ・ゲル シ・ゲルの手に魔力が集まり光が次第に大きくなる。 マシュー「ふ・・チャージなどさせるものか・・・」 煙を払うように手を払うマシュー。 その時。 シ・ゲル「な・・・・・魔法が・・」 そうだ。 まるで火を消すように魔法が消えていく。 集めたマジカが・・・霧散していったのだ。 ことここに至ってはシ・ゲルとて慄く他はなかった。 シ・ゲル「お、おのれ貴様ぁぁぁっ!私に何の恨みがある!?この高貴なエルフである私に!」 冷徹な眼でシ・ゲルを見ながら言うマシュー。 マシュー「いいだろう。面白い宴会芸を見せてくれた君の御遊戯に免じて答えてやろう。 一つ目だ。言っただろう?君には返さなければならない借りがある。我が半身とも 言えるメルダを惨殺した上、首を足蹴にするなど・・決して許すわけにはいかない」 冷徹な眼にかすかに浮かぶ怒りの色。 それは激しい怒り。 深く、激しく。魂の奥底から浮かび上がる怒り。 余りの激しい怒りは人をかえって無表情にするものだ。 パチン。左手で指を鳴らすマシュー。 バキバキバキバキ・・・ 嫌な音がする。 シ・ゲル「ぐ!ぐぁぁぁぁぁぁっ!き、貴様何をしたっ!?」 思わず左肩を抑えつつ悲鳴を上げるシ・ゲル。 マシュー「やれやれ。これだから無能は。質問の追加か。ちょっとしたお遊びだ。もう 君の左手は使い物にならん。なんせ骨がすべて粉々に砕けてしまっているからな」 肩を抑えながら憎憎しげにマシューを見るシ・ゲル。 シ・ゲル「く・・・」 まさにいつぞやの戦いが攻守逆転した形だ。 マシュー「次の回答だ。あの程度の迷宮や雑魚で私をどうにかできると思っていたのか? 以前の私とは違うのだ」 パチン。右手で指を鳴らすマシュー。 シ・ゲル「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」 左肩を抑えていた手が ぶらん と垂れ下がる。 マシュー「これで君の両手は使い物にならん。まぁ・・文字通り”粉”ごなになった骨を つなげられるとも思えんが」 怯えた眼でマシューを見つつ言うシ・ゲル。 シ・ゲル「な、なぶりものにするつもりか・・・貴様人としての情けは・・・」 マシュー「ないな。そんなもの。大体君が言える台詞か?それは。メルダの苦しみ、メルダの仇。 ゆっくりと復讐させていただく所存だ。楽に死ねると思うな。そうだな・・・定番では 次は足だろうが、こういうのはどうだ?」 マシューの目が一点に注がれる。 シ・ゲル「あぁあぁあぁぁぁっぁぁ!!!!!」 思わず仰向けに倒れるシ・ゲル。 声にならない叫びを上げるシ・ゲル。 マシュー「これで君も宦官の仲間入りというわけだ。もっとも両手が使い物にならないんでは 役に立ちそうもないが」 痛みと恐怖で涙目で言うシ・ゲル。 シ・ゲル「わ、私を殺しても・・神の復活はとめられん!それに私の後を継ぐ者は必ずいる! エルフの真なる解放を望むものはたくさん・・・」 マシューが手を横に払う。 シ・ゲルの叫びが響き渡る。 マシュー「まぁ定番だな。これで君の四肢は使い物にならなくなったわけだ。おっと。楽に気絶など して安楽な道に逃げられても困るのでね。逃げ道は塞がせてもらった。気絶なぞさせん」 シ・ゲル「お、おのれぇぇぇぇ・・・・・ひ、一思いに殺せ!」 懇願・・でもなかろうが・・・そうやって叫ぶのが今のシ・ゲルにとって精一杯だった。 マシュー「さて、次はどうしようか・・・ああ、君と同じにされては困る。私はそこまで悪人ではない。 ”殺しはしないさ”そんな簡単に安息を得られても困るのでな」 シ・ゲル「外道め・・・」 ふ・・・ニヤリと笑ってマシューは言う。 マシュー「まさか君にその言葉を言われるとは。そっくり返したいところだがいい響きだ。頂いて おこう。そうそう、最後の質問に答えねばならなかったな」 シ・ゲル「・・・」 マシュー「高位の呪文だかなんだか知らんが人の世の呪文なぞ私には効かん。私にも ”神の加護”があるのだ」 思いも寄らぬこの発言にはさすがのシ・ゲルも問わざるを得なかった。 シ・ゲル「神・・だと・・・貴様何を召還した・・・っ!?」 そんなシ・ゲルを意にも介さず言うマシュー。 マシュー「最も召還されただけで、封印が無くなった訳じゃないからな。いずれ力も衰える だろうが、今の君を相手にするには十分だ。そうそう・・・何を召還したと言われても 困ってしまう。そもそも召還したのは君自身だろう?私は何も召還しておらん」 シ・ゲル「な・・・なん・・だと・・・貴様は一体・・・?」 このセリフに想像がついたのだろうか・・・顔面蒼白になるシ・ゲル。 マシュー「そう大仰に構えられても困る。千の無貌の一面。それにすぎん」 シ・ゲル「そうか神の加護とは・・まさか貴様神と契約したのではなく・・・」 どうやら自分がとんでもない存在を相手にしている事に気づきだしたシ・ゲル。 マシュー「君の望む神の復活は果たした。一部分だがな。ちゃんと君の理想通りになったと 言うわけだ。覚えていないのか?」 シ・ゲル「な・・・何を・・・」 マシュー「私は問わなかったか?”神を召還するとどういうことになるか”と。こういう結果に なるのだ」 シ・ゲル「く・・・貴様が正しかったとでもいうか・・」 顎に手をあて考えるように言うマシュー。 マシュー「さて、こうなってしまっては正しいとも誤っているとも言えん。ふむ・・・面白い命題だ。 うむ・・実に興味深い。これはそのような考察を与えてくれた君に礼をしないとな。 それにそろそろ飽いてきた」 一瞬マシューの目が鋭くなる。 シ・ゲル「!!!!!!!!!!!!!」 最早悲鳴とすら聞き取れない絶叫を上げるシ・ゲル マシュー「茶番は終わりだ。文字通り化けの皮を剥いでやったぞ。さて、先ほどの報酬の 件だがね。たかが一側面に過ぎない私にはたいしたことはできないのだが、今なら 君に数千年の寿命を与えることができる。それを差し上げようじゃないか。 それなら約束どおり、殺さないで済むだろう? 誰でもが望む長寿が今君の物になるのだ。喜びたまえ」 泡を吹くシ・ゲル。 それはそうだろう。四肢、男性の大事な部分を破壊された上、文字通り全身皮を はがれた真っ赤な姿で転がっているのだから。 その想像を絶する苦痛の中、マシュー声は届いているのだろうか・・・ マシュー「もっとも、傷が癒える事もないし、発狂だの狂気に逃げ込むことも許さん。 気を失うことすらさせん。 その姿のままそこに転がって数千年の飢えと乾きと苦痛に苛まれつづけろ。 誰も来れぬようこの遺跡も封印する。 それがメルダを殺めた貴様への礼だ」 そういうときびすを返すマシュー。 マシュー「そうそう。忘れていたよ。心配するな。苦痛を感じるのは君だけじゃない。 君達腐ったエルフは根こそぎこの世界から消滅させてやる。もっとも・・・・ 君のおかげで大分力を使いすぎた。時間はかかるだろうが」 そういうと挨拶のように手を上げるマシュー。 マシュー「それではアディオスだ。精々解けぬ悪夢を楽しむがいい・・・・」 -------------------------------------------------------------- Part6(Final)に続く
-------------------------------------------------------------- マシュー(ここは・・・・どこだ・・・・) 体が動かせない。指一つ、目も動かせない。闇の中のようであり、また目もくらむ光の中にもいるようだ。 マシュー(俺は・・・どうなった・・・・そうだ・・・メルダの遺体を見て・・・それから・・・) 思いをめぐらすマシュー。 マシュー(ああ。そうだったな・・・何も考えられなかった。頭の中が真っ白で・・・何か斬られたようでも あったが・・・・そうか・・・俺は死んだのか・・・これであいつの所にいけるな・・・・) ある意味諦観であり、ある意味安息であろう。彼は死を受け入れようとしていた。 その時 声「おやおや。残念だけどそうは行かないかもしれないねぇ・・・」 クスクスと笑うように声は告げる。 女の声だ。 といっても少女ではない。 若い・・・どこか妖艶であり、どこか人をあざ笑うような声。 マシュー(だれだ・・・・) 声「誰でもかまわないさ。誰でもあり、誰でもない」 マシュー(からかっているのか・・・・それにここは・・・ふ・・・どうせ死ぬんだ。あまり意味はないか・・・) 声「死んじゃぁいないさ。でも生きてもいない」 生でもなく死でもない・・・ その奇妙なたとえに思わず聞き返すマシュー。 マシュー(なん・・・だと・・?どういうことだ・・・) 諭すように。どこか嘲笑うかのような自虐にもにた調子で続ける声。 声「僕にとっては時間も空間も意味を持たない。あらゆる場所にいて、同時にいない。 あらゆる時間にいて、同時にいない。そんなたわいもない存在だよ」 マシュー(そんな存在が何の用だ・・・さっさと済ませてくれないか・・俺はあいつの元に・・・・) 声「ここは僕のちょっとした領域の一つさ。君にちょっとお願いがあってね」 マシュー(は。生きてるか死んでいるか分らない奴にお願いだと?) 声「このまま元の世界に戻れば君は間違いなく死ぬ。そして最愛の人の下に旅立てるだろうねぇ・・・」 マシュー(それでいいじゃないか・・・あいつがいない世界なんて・・どうでもいい) すでに最愛の人はこの世になく、マシューにとっては現世なぞどうでもいいことであった。 声「でも、このまま終わらせていいのかい?あの男は憎くないのかい?」 マシュー(どの道死ぬんだろう?なにが出来るってんだ・・・) 声「僕が力を貸せば君は元の世界で蘇ることも出来る。あの男に復讐することだって出来るんだ・・」 挑発的な・・・いや、どこか人を扇動し動かそうとするような声。 あからさまに姦計をにおわす声。 それでもなお、その問いかけはマシューの心に響いた。 マシュー(・・・・どこの誰か分らない奴に手を貸せと?) 声「何者かって?あはは。好きに読んでくれればいいよ。無貌の神、暗黒神、燃える三眼、這い寄る混沌。 あるいは、夜に吠ゆるもの。何とでも」 マシュー(邪神か・・・どうせこんなとこに出てくるんだ。ロクなもんじゃねぇと思ってたが・・・何をさせたい) 声に困ったような・・苦笑する様子が伺える。 声「いやぁ召還かかっちゃって。となると顕現しないわけにはいかない。だからといって召還されて言いように されるなんて神の沽券にかかわるからさ」 マシュー(それで蘇らせて何処の誰か知らんが馬鹿な召還者を倒せってか。それでこんなとこに呼び出したのか。 結果は知ってるだろ?俺に何ができる) 一体何をさせたいのか?いぶかしむような調子で言うマシュー。 声「人の身であればね。でも顕現が君だったら?僕と・・・」 マシュー(僕と契約して邪神になってよ。とでも言うつもりか?大体召還されてるんだろうが。それに俺が 顕現になってどうする。召還されたのはあんただろうが) そうだ。マシューが顕現するという事はマシューが邪神である事を意味する。 であればこの問いかけに何の意味があろうか? だがそんな問いかけに事も無げに言い放つ声。 声「問題はないよ。千の無貌とも呼ばれてるんだ。千の顕現の一つが君だったってだけだ」 マシュー(・・・・いいだろう。あのクソったれなエルフ共を・・あのクソ茶色なシ・ゲルさえ潰せるなら、 相手が悪魔だろうが邪神だろうがかまうものか。俺の魂ごとくれてやる) 声「決まりだね。次に目覚めた時から君は僕の一部。千の無貌の一側面となるんだ・・・・」 -------------------------------------------------------------- ゆっくりと立ち上がるマシュー。 だがその顔は余りに暗い。 どこか垢抜けた・・どこか陽気で気さくだった雰囲気は微塵も感じられない。 濃い闇を見にまとい。眼光すら鋭いものに変わっている。 何があったというのだろうか。すっかり髪の色も抜け落ちて銀髪へと変わり果ててしまっている。 ニヤリ。 マシューはほくそ笑んだ。 そして忽然と姿を消した。 -------------------------------------------------------------- 「うわぁぁぁぁぁっ」 「な、何者だ!?」 「つ、強い・・・・いったい何者なんだ!?奴は!」 「たかが劣等種族がこれほどの・・・」 阿鼻叫喚の叫びが木霊する。 あのエルフ達に明らかに走る怯えの色。 いやこれは・・・怯えというレベルではないだろう。 ”恐怖” まさに彼らは恐怖を感じていた。 眼前に無防備に経つ銀髪の男に。 獲物すら持ってはいない。 だが、その両手は真っ赤に染まり、血が滴り落ちている。 両手・・・そうだ。両手だ。 剣や斧といった獲物さえ持ってはいない。 見れば足元に何人ものエルフの亡骸が転がっている。 怯え、恐怖の目でマシューを見るエルフの生き残り達にマシューは静かに言い放った。 マシュー「お祈りでもしろ。きさまたちは生きては返さない。私は生まれてはじめて よろこんで人を殺す・・・」 -------------------------------------------------------------- Part5に続く
-------------------------------------------------------------- 衛兵の詰め所で惰眠をむさぼるマシュー。 その寝顔はお腹一杯のハチミツ種よりももっと幸せそうだった。 というより、足元にハチミツ種の瓶がいくつも転がっている。 同じように衛兵たちもそれぞれぶっ倒れるようにして眠りについている。 宴会でも開いたのだろうか・・・ 見ればうっすらと空も白み始めたあたり夜が開け始めているのだろう。 そんな時。 ぎぃぃぃぃ・・・ ゆっくりと木の扉が開かれる。 寝ていたはずのマシューの右手が剣にかかる。 長い傭兵や冒険者時代の本能が自然に警戒をさせたのだろう。 マシュー「・・・・誰だ?」 寝ていたはずのマシューが声を上げる。 「ま・・・・マシュー隊長・・・ゲフッ」 思わず立ち上がるマシュー。 そのまま扉の方に駆け寄った。 マシュー「おい!大丈夫か!」 見ればここまで這ってきたのだろう。 扉の所の男は薄汚れている。 マシュー「お前は・・・しっかりしろ!」 マシューには見覚えがあったのだろう。 マシューの部下だった男だ。 さすがに膝以外に矢を受けて衛兵になったような男はこの男しかいない。 忘れようがなかった。 這ってきたという事はよほどの事があったのだろうか? いや・・・それどころか・・・・男の後には血の跡が続いていた。 何者かに襲われたのであろうか? 衛兵「わ・・・私のことよりも・・・・」 マシュー「そんな事よりお前の方だ!ひどい怪我じゃないか!待ってろ!今癒しの手を・・・」 衛兵「私の話を聞いてください・・・我々は帝都に入り込んだエルフをメルダ様と共に追っておりました」 マシュー「帝都にだってエルフはいくらでもいる。大体なんでメルダがそんなまねを・・」 とは言えマシューもただ聞いているわけではない。 メルダから習ったのだろう。不器用ながらも癒しの手を使って兵を治療しながらだ。 衛兵「皇帝陛下からの勅命なのです」 マシュー「んだとぅ!あのクソ爺・・・俺のメルダになんてことを・・」 衛兵「いえ、正確には皇帝陛下から命を受けた魔術師ギルドが彼女を捜索の任に充てたのです。 失礼ですが、隊長もメルダ様も帝国の生まれではありません。隊長はまだ衛兵長なので市民権が ありますが、メルダ様にはまだありません。ですから不法滞在者か奴隷と同様の扱いで、 魔術師でそれなりの腕をもち、帝国臣民でもない者。これならば有事の際も帝国に害はないと ギルド長が・・・・」 眉間に皺を寄せてマシューは言う。 マシュー「あのアーンゲールのクソ爺・・・」 衛兵「そして・・・ここからが大事なのです。我々はメルダ様と共にエルフを追っていました。それはエルフが 帝都で悪事を企んでいるとの報があったからなのです」 マシュー「それならメルダじゃなく俺達の仕事だろうに・・・」 衛兵「マシュー隊長は色々な意味で顔を知られすぎています。大体容疑も確定していないのに表立って衛兵隊が 動くわけにはまいりません」 マシュー「それはそーなんだが・・・」 衛兵「そしてついに姦計を聾しているエルフを突き止めたのです。シ・ゲルでした。あいつはこの帝都で邪神を召還しようと していたのです」 マシュー「な、なんだってーっ!」 衛兵「なんとか阻止しようとしましたが・・・シ・ゲルの手の者が余りに多く・・・」 マシュー「それでメルダは!?」 衛兵「この事を隊長に伝えよと命を受けここまで逃げてきましたが・・・追っ手の方があまりに・・ゲフッ」 さすがに深手だったのだろう。癒しの手のおかげで多少は話せたもののこの衛兵も長くはないようだった。 衛兵「シ・ゲルはまだ町の外れの遺跡にいるようです。早く行かないとメルダ様が・・・」 マシュー「わかった。よくやったぞ。もう休め。それだけの事をしてくれたよ」 衛兵「申し訳ありません・・・少し休んだらわ・・・た・・し・・も・・ま・・・・・・た・・・・・」 それきり衛兵は動かなくなった。 そっとまぶたを閉じてやるマシュー。 マシュー「あのこげ茶野郎・・・・まってろ・・・今その首を壁に飾ってやる!」 そう言うとマシューは駆け出した。 -------------------------------------------------------------- マシュー(はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・) 息が荒い。 見ればあちこちがどす黒く汚れ、持つ剣も血にまみれている。 パチパチパチ・・・ 乾いた拍手の音だ。 しかしそれは決して賞賛を思わせない音。 シ・ゲル「いやはやなんとも・・・驚きましたな。わずかこれだけの間に、役に立たない手下とはいえ、 数名のエルフを切り捨てるとは・・・・ その手下にさえ劣る劣等種族と思っていましたが・・・まったく貴方方は。これはいい勉強に なりましたな。認識を少々改めないといけないようだwww」 憎憎しげにシ・ゲルを睨みながらマシューは吼える。 マシュー「てめぇ・・・一体何を企んでやがる!何のために邪神なんぞを召還しようと!?それに・・・ メルダはどこだ!言え!」 だがそんなマシューなぞ意にもかけないように。まるで目の前の子供を諭すように人差し指を振りながら 言うシ・ゲル シ・ゲル「おやおやおや。質問は一つずつにして頂きたいものですな。そういう風には教えられなかったの ですかな。まったく、この劣等種族共と来たらwww」 マシュー「答えろ!」 マシューが吼えた。それに気後れしたわけではあるまい。ニヤリと嗤いながら言うシ・ゲル。 シ・ゲル「いいでしょう。あっという間に配下を切り伏せた貴方の蛮勇に免じて答えて差し上げよう。 企みといいましたかな?私は何も企んではおりませんよ。 我らエルフのために、エルフがなしえる事を。そう。真なる開放のために我が同胞達の切なる 願いを果たさんと動いておるだけなのですよ」 マシュー「それが邪神の召還か!?そんな物召還すればどういう事になるか判っているのか!?」 いかなマシューとて冒険者としても修羅場を潜り抜けてきた。シ・ゲルの企みが如何に危険かは 身にしみて知っていた。 だがシ・ゲルに意に介した風さえない。 シ・ゲル「分っておりますとも。貴方方生きる値打ちも何もない、劣等種族は滅び、真なる大地の 主たる、我らエルフがこの地を治めるのです」 マシュー「貴様にそれが出来るわけがねぇぇぇ!」 哀れむような眼でマシューを見ながら言うシ・ゲル。 シ・ゲル「貴方方劣等種族と同じにされては困りますな。虫けらのような貴方方では出来ないことであっても 我々なら児戯にも等しい。そうだ。エルフこそが人の頂点であり、真なる人なのですよ」 マシューの眼に更なる怒気が走る。 マシュー「てめぇ・・・自分を何様だと思ってやがる・・・」 シ・ゲル「そうそう。もう一つ答えないといけませんでしたな。ほらそこに転がってるゴミ。貴方は見覚えがあるのでは?」 マシュー「なにぃ・・・・」 そういわれて目を向けてみるマシュー マシュー「!!!!!!!!!!!!!!」 そこには・・・焼け焦げた細長いものとが転がっていた。 絶叫すら枯れ果てる驚愕。 かろうじて言葉をつむぐマシュー。 マシュー「う・・・うそ・・・だ・・・・」 そんな残酷な風景など微塵にも惨く感じないのだろう。 劣等種族というからか・・・ シ・ゲル「お認めになったらどうなのですかな?往生際の悪い。ほら私は答えましたぞ?」 そうだ。細長い焼け焦げた人間の女性の胴体と・・・ シ・ゲル「おお、そうだそうだ。これもありましたな」 何か小さくて丸い物を蹴ってよこすシ・ゲル。 それは・・・人間の頭部。 メルダの生首が転がってきたのだった。 マシュー「メルダァァァァァァァァァァァァッ!」 -------------------------------------------------------------- Part4に続く
【名前】ハーディア・ロート(Hardia・Rot) 【性別】女 【年齢】人間換算30代中盤 【種族】エルフ 【所属・役職】王室専属家庭教師 【性格等設定】 真面目かつそれなりに冗談もこなす穏やかな気性の持ち主。 堅物に見られることも少なくないが、マイペースな王族兄妹達の振る舞いもそれなりに楽しんでいる。 特に姫君の脱走報告は楽しみの一つで、彼女の見つけてくる不思議なものの話が一番好き。 【備考】 濃い緑の瞳。赤毛を高い位置で結ってまとめている。 教育係として任命されるまでは外交官としての任についていた。 嗜みとしてある程度ならば剣を扱う事もできるものの、本職には遠く及ばない。 もっぱら頭脳担当で、王族兄妹達に自身の知り及ばぬ事を質問されてもすぐに答えられるよう、 分厚い辞書を常に携えている。ごくごくたまに武器にもする。 いい加減適齢期もいいところだが、今は自分の幸せより姫君の幸せが優先。 手のかかる、もとい手のつけられない弟がいる。 【ステータス】 ★HP:150 ★MP:250 *攻撃力:10 *魔力:50 *防御力:20 攻撃方法:魔法
普段73番が扱っている薬品です。 薬 ・治癒の飲み薬 原料は緑の葉っぱと白い木の実と赤い木の実。 自然治癒力を活性化させ、傷の治りを早める。 かつてはもっと強力なものも作られていたが、現在では違法。 ・治癒の塗り薬 原料は緑の小さくて丸っこい葉っぱと黄色い花の草。 患部の出血や炎症を抑え、傷の治りを早める。 ポピュラーな傷薬。なお、飲むと皮膚炎を起こすので注意。 ・止血の粉薬 原料は背の高いキノコと平べったいキノコ。 飲むことで出血を抑える効果を持つ。圧迫止血では止められない際に有効。 効果は高いが、死ぬほど苦い。 ・応急処置の粉薬 原料は池にいるカニの殻と背の高い水草の穂。 傷口にふりかけることで血液を強引に凝固させて止血する。 大怪我であっても数分で止血可能。 ・解毒の飲み薬 原料は背の低い葉っぱの白い花と紫の花の根っこ。 一般的によく使われる毒を解毒可能。 ただし、赤ひょろっとしたキノコの毒は解毒できない。 毒 ・火傷の塗り薬 原料は蜂蜜と小さい黄色い花。 重症でない火傷の治癒を助ける。 魔法の火も含め、ほとんどの火傷に有効。 ・壊死毒 原料は緑の毒グモ。 遅効性で、打ち込んだ部位を壊死させる。 解毒はやや難しい。 ・血液毒 原料は毒蛇と黒い羽虫と蛭。 止血を困難にし、弱らせ、失血死させる。 解毒は容易。 ・遅効性神経毒 原料は黒い毒蜘蛛と丸っこいキノコ。 最初は症状が軽く、数日後に一気に殺しにかかる。 解毒はやや難しい。 ・複合毒 原料は赤いひょろっとしたキノコと丸っこいキノコと毒蛇。 最初は腹痛・嘔吐、続いて目眩や麻痺、呼吸困難、言語障害、造血阻害、全身の糜爛、腎不全・肝不全を引き起こす。 解毒も難しく、解毒できても後遺症が残る。なお、触れればアウト。